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説明文

彼女は仕事から帰ってきた。直前の電話でいつもと違う様子を感じてた。 押し殺してた感情。傷つけられた心。それを隠して帰れますと宣言したような言葉の羅列。そして、彼女が家に着いた時、僕の前を素通りした。そして、理由や説明も無く怒りを爆発させた。 それから、拳に力をこめて膝に押し付けた。それは、怒りを押し込むのでは無く、大砲に弾を押し入れる作業だった。彼女の口から唸りが漏れ、叫びが天井に向け放たれた。 その後、僕は彼女の横に座りつつ静かに内心は途方に暮れていた。うかつに触れても拒まれ、離れてゆく。でも傍観も出来ないだろう。まだ、僕は彼女の怒りの理由も聞いていない。 ただ分かっていたのは、今晩僕が作った夕食は生ゴミとなる運命にほぼ決定となったこと。彼女が怒った時、まず全ての食事に手を付けず無言で寝てしまう。 初めの時は呆気にとられ、僕は傷付いて怒りながら皿から料理をゴミ箱へと落とす、何故なら明日も食べないから。僕も食べない。理由は言いたくない。 でも、僕は覚悟を決めて隣に座った、そしてここから理由を聞き出すのには忍耐と高度な技術を要するのだ。何せ爆弾の解体作業だから。こちらの言葉かけのニュアンス、抑揚も状況で変える。 でも、彼女の怒りは正しい。この事は分かりにくい。初めは彼女の問題を分解して、図面に書くようにしてみた。でも、そこに流れる過重なエネルギーは?その構造に流れる力はその構造にねじ曲げられ、押さえつけられる。彼女はその事に侮辱を感じている。 僕は初め、その構造に疑問すら感じていなかった。その構造は仕事だけではない、僕達の関係にも反映されている。 彼女の怒りは仕事から僕に移ってゆく、必ず僕は、その時何かに気付かされる。だけど、そこからくる無力感、子どものように「でも…でも。」と自分の中に言葉を探すけど無自覚に彼女を傷つけたことに何か言い返す言葉があるだろうか。 でも、それについて今すぐに出きることは無い。もし、僕が彼女の女友達だったら彼女の理不尽なことへの怒りを癒すことが出来るのか。母親なら優しくあたたかな目で静かにその怒りが収まるのを待ち、温かい食事を出して食べさせられるのか。人の信頼にはいろいろな形があり、お互いに傷付け合う信頼もある。 だから、その事に謝りつつ彼女の肩を抱き、頭を撫で、僕の肩に彼女の頭を乗せる。腕を軽く擦りながら、しばし、そこから僕は珊瑚礁の美しい海を泳ぐ海ガメとなり、この世界から流れ出て、この僕達にビルトインされている回路から一時的に一人で解放されることを夢見て、自分が生きているこの構造への全ての僕自身の怒りから逃れるため、彼女を残して泳ぎでてゆくのだ。
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