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説明文

去年の夏。僕は白の帽子に黒ぶち眼鏡、白いシャツに白いズボン、黒いベルトに黒い革靴を履いて、黒の自転車をこぎ病院へ通った。ベッド脇でただ君の話しを聞き、ノートにそれを書いた。クラスメートである僕は人柄と字が綺麗であることを理由にその事を頼まれたのだ。それが君の望みだった。でも、いつしかそれは僕の望みにもなった。彼女の赤裸々な告白を真剣に僕はノートに刻んだ。だけど病院に通うたび、日に日に病状は悪化する、ノートは3冊になった。時に彼女は吐血しノートや僕のシャツを汚すことがあったが気にしなかった。それより、彼女が最後を迎えた後、僕は彼女の肉と魂の痕跡であるそのノートが欲しくなった。当然の権利とさえ思うようになった。彼女はそれをどうするのだろうか。一緒に焼かれるのか、親の元に保管されるのか。それは断じて嫌だった、感染性の病気であるからと、ろくに見舞いに来ない両親を許せなかった。でも、聞けなかった。裏切られるのが怖かった。自分の我が儘を伝えることが出来なかった。でも、結局自分の思いは叶わず、ノートに綴られた恋の相手に死後渡ることを決めたようだった。僕の気持ちを知らず相談してきたのだ。普通の人が血の染みた白いノートを受けとるだろうか、ましてや綴られた内容が自分のことを含むものだったら。でも、彼女はシーツや枕を血で汚しながら、青白い顔でそれを望んだ。ほとんど滑稽さを感じる程必死に。そして、お分かりの通り彼女がいよいよという時、彼女の耳元でそれを頂くことを吐息とともに伝え、病室を後にした。その3冊のノートは今でも勉強机の一番下の引き出しに他のノートと一緒に並んでいる。
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