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説明文

‘長兵衛そんなこた十手持ちのとこに持ち込むのがスジだろう?’ ‘ところがいま生憎と銭形の親分 日頃から銭を粗末に扱ったのが祟っただのなんだの云って女房のおしずさんと江ノ島の弁天様にお詣りに行ったきりもう一月も江戸を留守にしてますんで’ ‘ふうんそうか。あんまり信心深い岡っ引きにも困りもんだがしょうがねえ。しかしなあ長兵衛…こちらも今生憎と…’ そういって平十郎傍らの徳利を自分の耳元に近づけて軽く揺すってみせる。残り少ない酒が徳利の中でちろんと頼りなげな音をたてた。 ‘へへ。そんなことだろうと思って平十郎の旦那 ちゃんと用意させてもらってやす’ そういって長兵衛 戸口の陰に控える若い衆に持たせた一升徳利をにやにやしながら平十郎に手渡した。なんのことはない。これは長兵衛が平十郎に面倒ごとを頼む時の今や儀式のようものになっている。 ‘そうかそれじゃいっちょう一暴れしてくるか’ 平十郎やにわに立ちあがりずしりと重い徳利の口を開けるが早いか水でも飲むように一気に喉に流し込む。その傍らで長兵衛とお福 珍しい小動物でも見るようにぐびりぐびりと上下する平十郎の喉仏に見蕩れお福の背中の赤ん坊はほあんと小さな欠伸を洩らす。 ‘ふうぅ血の気が沸くわ。長兵衛桔梗やで暴れてる雑魚は何匹だ?三匹かよおし。刺身にしてやる!’ 云うが早いか平十郎 自慢の刀をひっつかみ毛脛晒して一目散に外へと駆け出していった。 平十郎三十五歳 お家の事情で浪人暮らし 少々暇をもて余している。
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