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《懐かシネマ》シリーズにして、『寝る時聴きたいsoundtrack』Vol'6 スティーヴン・キングは 年収70万円の教師をしながら 作家になろうとしていましたが、うまくいかず 妻と二人の子供と、トレイラー・ハウスで 酒浸りの日々をおくってました。 転機は1973年、26歳の時『キャリー』がベストセラーに。 そこで教師を辞め コロラド州ボウルダーで作家活動に専念し、『呪われた町』を書き下ろしました。 次作の構想を練る為、ボウルダーから さらにロッキーを登り、道すがらにあった「スタンリー・ホテル」に目をとめ 宿泊してみる事にしました。 そこは 冬になると雪で道路が埋もれてしまう為《冬季閉鎖》の準備中でした。 お客がいない為、長い廊下は幽霊が出そうなくらい静かで、キングはレストランで一人で食事し、 誰もいないBARで《グレイディ》という名のバーテンダーに迎えられ 迷路の様な廊下を通り、迷子になりながら 借りた部屋《217号室》に帰ったキングは、 「シャワー・カーテンの向こうに何かいるかも……バスタブに女性の死体とか……」 と、恐怖を感じました。 『シャイニング』(77年) の構想がまとまった瞬間です。 ……こんなストーリーを…… 作家志望のジャックは、作家業に専念する為にコロラド州の《冬季閉鎖ホテル》「オーバールック・ホテル」の管理人になります。 春になって ホテルが再開されるまで、下山する事は出来ません。 《家族》妻のウェンディ、息子のダニー も一緒です。 息子のダニーには特別な能力があり、同じく能力を持つ 黒人のホテル料理長ハローラン から 「君も《シャイニング》を持っているんだな」 と、語りかけられます。そして… 「《217号室》には入ってはいけない」 と…… 前の管理人《グレイディ》は、閉鎖的な冬のホテルの環境に気が狂い、妻と二人の娘を惨殺し自殺したのでした…… 本当に 気が狂っただけなのか?……いや…このホテルには得体の知れない何かが《いる》… 『シャイニング』の映画化権はゲラ刷りの段階でワーナーが買い、 イギリスに住む スタンリー・キューブリックに届けられました。 映画『シャイニング』(80年) のスタートです。 『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』を撮り《鬼才》と言われたキューブリックも 前作『バリー・リンドン』をコケさせてしまい、《当たる》映画を撮る必要に迫られていました。 「《あの》キューブリックが自作を映画化してくれる!」 感激したキングは、自らシナリオを書いてワーナーに送りますが、キューブリックは見もしませんでした。 プロットには興味があったけど、他は変えていかなければ…と思っていたのです。 キューブリックは女流作家 ダイアン・ジョンソンに脚色を頼みます。 シングルマザーを襲う、何者かの恐怖を描いた『影が知っている』(74年) を書いた作家です。 ジョンソンは、 「キューブリックの意向は、ホテルのミステリーと、家族の心理力学と、子供の目から捕らえられた恐怖の観念に話を絞り込む事でした。」 と、言ってます。……幽霊がいませんね😅 キューブリックの最大の否定は《霊》の否定です。 キューブリックは脚色中、朝7時にスティーヴン・キングに電話して 「幽霊を信じるのは、楽観的だと思わないか?」 と、問いかけます。 「幽霊の存在は、人間には《死後の世界》がある事を前提にしている。お気楽な考えじゃないか?」 キングは、 「地獄もあるから、気楽とは言えない」と答えます また、 「神を信じるか?」の問いかけに キングは「もちろん」と答えます。 キューブリックは『2001年宇宙の旅』(68年)で、神とは《高度な異星人》と定義した男です。 当然「神を信じていない」…… 両者の考え方は、真逆だったのです。 映画『シャイニング』に出てくる霊現象は、精神病理学的に説明出来るようになってます。 霊ではなく、邪悪な内面なのです。 また、キングが小説『シャイニング』に込めた、悪夢の様な状況に抵抗する《親子の情》も、キューブリックは《バッサリ》カットしてしまいました。 それは不遇な時代を 家族と過ごし、紆余曲折あったスティーヴン・キングの《想い》も《バッサリ》切られたと同じなのです。 キングが映画版『シャイニング』を 「エンジンのないキャデラックだ。見かけは豪華だがそれだけだ」 と断じてます。 では、映画『シャイニング』は《中身のないキャデラック》なのか? キューブリックの演出法もあり、凄まじい傑作になってます。 《完璧主義者》と言われるキューブリックは、ロンドンのセットに ホテルの内部を作り、全てを人工的にコントロールしました。 カメラをカメラマンの体で支える懸架装置《ステディカム》を採用。 これは『ロッキー』(76年) で初めて使われた装置で、『シャイニング』では 開発者ギャレット・ブラウン自身が撮影しました。 ダニーが三輪車で ホテルの廊下を走り回るシーンは、ステディカムを車椅子に低く取り付け 撮影しました。 エレベーターからの《血の洪水》は、何度もリテイクを重ね、その都度セットを作り直しました。 また、役者陣も《リテイク地獄》を味わいました。 ジャック・トランス役のジャック・ニコルソン 妻のウェンディ役の シェリー・デュヴァル 息子ダニー役の ダニー・ロイド の3人が ホテルの廊下を歩くシーンは 87回も撮り直しました。 料理長のハローラン役の《69歳》スキャットマン・クローザーズは キッチンを横切るだけのシーンで 136テイク 雪上車を降りるシーンで 50テイク ダニーに《シャイニング》の説明するシーンに148テイク ジャック・ニコルソンに斧を突かれるシーンの 40テイク目で 「老人には酷だから、許してやってくれ」 とニコルソンが キューブリックに懇願しても、撮影は続行されました。 妻役のシェリー・デュヴァルは、演技の全てをキューブリックから否定され、ヒステリックに怒鳴りつけられました。 そのあまりの《否定》に 神経衰弱で倒れてしまったシェリー・デュヴァルに、キューブリックは追い討ちをかけます。 「同情を引こうとしても無駄だ」 「いつまで僕らのクソ貴重な時間を無駄にさせるつもりだ!」 シェリー・デュヴァルの心労の為、髪の毛が抜けていきました。⤵⤵😱 彼女の演技は、セット内で実際に《ジャック・トランス = キューブリック》に閉じ込められていた 生の演技だったのです。 そんな中でも流石 ジャック・ニコルソンは《正解のない》キューブリック演出法を楽しんだみたいで、 繰り返すリテイクも、アドリブ全開で乗り切ります。 ウェンディが隠れたバスルームを 斧で叩き割り、穴から顔を出し 「Here's Johnny! ( ジョニーだよ!)」 と言う 有名なシーンは、ジャック・ニコルソンのアドリブ。 音楽は、ウェンディ・カーロス (性転換前はウォルター・カーロス ) が、 ベルリオーズの『幻想交響曲』より第5楽章「魔女の饗宴」をシンセサイザーでアレンジし、メインタイトル曲を作りました。 最早 ホラー映画の古典になった『シャイニング』 映画は 1200万$の製作費で、9498万$の興行収入をあげ、大ヒットになりました。 そして月日は流れ、スティーヴン・キングは『シャイニング』の40年後の続編『ドクター・スリープ』を2013年に出版します。 当然 映画化が動き出します。 監督は『ゼロ・グラビティ』(13年) のアカデミー監督賞のアルフォンソ・キュアロンにオファーが行きましたが、断られました。 キューブリックの後釜は 大変なのです。😌 (ま、『2001年宇宙の旅』(68年)の続編『2010年』(84年)に挑戦した ピーター・ハイアムズより ましか😁 ) で、『ジェラルドのゲーム』(17年)で キング作品を経験している マイク・フラナガンが抜擢されます。 《シャイニング》を持つダニー少年が 大人になり ( ユアン・マクレガー がキャスティング ) 過去に苦しみながら ホスピスで働いています。 ある日、彼は謎のメッセージを受けます。 そのメッセージを送っているのは、ダニーと同じく《シャイニング》を持つ 少女 アブラ・ストーン ( カイリー・カラン ) 二人は その《能力》を使い、友達になります。 ある日、彼女は 独自の能力で、謎の殺人集団が 《シャイニング》を持つ子供の《生気》を吸い取り 殺しているのを知ります。 その非道さに、アブラは ダニーと協力して ローズ・ザ・ハット (レベッカ・ファーガソン)率いる 殺人集団と戦う事を選択します。 と、どこが《シャイニング》なのか…と思う《能力者サイキック・バトル》ストーリー…… キング原作のTVムービーで よくある話…… でも、安心してください! ちゃんと《オーバールック・ホテル》が出てきます。 どうやってホテルに行く事になるか…ご確認ください😁 映画『ドクタースリープ』は、映画『シャイニング』を好きな人を 満足させる映画とは言えません。 しかし、《シャイニング》を持つがゆえに 苦しむダニー (ユアン・マクレガー) が、 自らの役割に目覚めるとこは、前作の流れもあり ちょっと感動します。 全米では、期待されたような興行成績をあげられず、《コケ》認定されましたが、 私は 『ドクター・スリープ』面白かったです。 最後に 子供をいたぶる…なんて、本当に悪いヤツだ! 『シャイニング』(80年) を撮ったスタンリー・キューブリック あれだけ 役者陣には無茶しながら、ダニー少年役のダニー・ロイドには 優しかったそうです。 子供がトラウマにならないように、原作にある 子供の前で起きる 怖いシーンを極力カットしたそうです。 だから ダニー・ロイド少年は、撮影中 これがホラー映画だと思わなかった…との事。 キューブリックも、善の《シャイニング》の持ち主だったんですね😄。
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