AWA
このページをシェア

関連プレイリスト

Playlist byGUEST

説明文

荘厳な劇場の舞台の上で歌姫が美しくも高らかに歌い上げている。 アリアもクライマックスを迎えようとしているその時、劇場の2階席に忍び寄る一人の暗殺者。彼は今、このクライマックスにここで殺人を行うことに限り無く酔っていた。 暗殺を行う中で自分のこの美技は、美しくも心を掴まれるアリアの場面が相応しい。 これから葬る相手が限りない高揚を心に満たしているその時に、この手にあるレイピアが静かに、その背に差し込まれる。 その繊細で磨きあげられた鋭い刃先を背中から抜いた時、そこからは血は一滴も出ない。だが、その刃は確実に心臓に達し、命はそのアリアの余韻の中で終幕を迎える。 その一幕を完成させるためにも、この劇場の光と影の間に身を置き、その時を待つ。 舞台では歌姫が輝く照明の光りを浴び、その両腕を高く上げた。 暗殺者は闇から光りへと姿を現し、相手の後ろ姿にうつる影のようにそこに立ち、相手の左肩を軽く押さえ刃を背中に向けて動かせた。 その時、照明の光りが彼をとらえ、一瞬の間が出来た、さらに葬るべき相手は右手に持っていた杖を床に落とした。それを拾おうと動いたので刃先が流れて相手の上衣をかすめて入って行った。 それに気づいた隣席の婦人が金切り声を上げ、劇場の客席の全ての視線はその場にそそがれた。暗殺者は前から、その婦人を刺し殺し黙らせると、後ろを振り替えること無くその場を離れた。 狙った相手の命を取ることより、このアリアを金切り声で汚した婦人に醒めた殺意を覚えて冷徹に乳房の下からその刃を差し込み抜いたのだった。 暗殺者は、劇場を出る頃、婦人を殺したこと、狙った相手を殺し損ねたことも覚えていない。いつもの平凡な男の生活に戻り、電車の高架下を抜けて街の雑踏に溶け込んでいった。
…もっと見る
はじめての方限定
1か月無料トライアル実施中!
登録なしですぐに聴ける
アプリでもっと快適に音楽を楽しもう
ダウンロード
フル再生
時間制限なし