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説明文

あわてて電車に乗って、電車の中を走った。先頭車両で、駅で、病院で、君が抱いてそっと渡してくれた命を僕は受けとることが出来なかった。僕が見たのは、あの子の最期。最後の一息だった。あの小さな体の小さな力を振り絞って、胸が空に向けて大きく吸い込んだ息は、あの子の命には届かなかった。僕は命という意味を今日、知ったのだった。あの子を失うことで本当の命の意味を知った。僕はあの子の力には、これっぽっちもなれなかった。あの子は自分の力で命という崖を這い上がろうとしたのだった。僕の目の前、手の届くところまで見えていたのに、何をしてあげられるのか分からないまま、全てを見送ってしまった。病室で僕と君はお互いに何か言葉を探していた。何かお互いにとって必要な言葉を。でも、本当に必要なのは、あの子に2人でかけてあげる言葉だった。もしかしたら、僕はあの時、あの子の小さな手を掴んでいたのかもしれない、その時あの子はどんなに僕の手を熱く心強く感じたか。でも、僕はあの子の小さな手を、あの子の必死さを受け止めきれず、僕の手からすり抜けさせてしまったのかもしれない。僕の心臓は何かに絞られたかのような苦しさを感じた。何かしら君と僕の間で会話があった、抱擁があった。でも、何かが違った。これは、君と僕で分かち合える悲しみではない。君は大切にそのお腹で自分の肉を分け与え、骨を育て、命を育んできた。僕は無邪気にあの子との未来を夢見てた。あの最期の一息にあの子との未来を感じていた。どうか運命が僕にあの子との30分間を与えてくれるなら、この腕にあの子を抱いて病院を飛び出して、外の空気と暖かな風とやわらかな光、子どもらと母親達の遊ぶ声を感じさせたかった。あの子と僕で感じたかった。短い時間で人生の意味を感じられるところに連れ出したかった。僕とあの子は地球の中では、孤独な二人だけど、命は病院の中にあるのでは無く、この外の有形無形の命に一秒一秒を与えられて生きていることを一緒に感じたかった。大きな永遠の中で一瞬で生きて失われてゆく命、僕と君。一瞬の中の父と娘として「愛してる」と伝えたかった。
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