ザ・フラテリスは、自らを神話のような存在でありたいと願っている。もちろん、彼らの音速ライヴを体感した、もしくは先導的なシングル・ヒットを耳にしたことのある幸運な誰もが、グラスゴー出身の3人組が実在することを知っている。しかし、ザ・フラテリスの存在自体が、彼ら自身によって完全に別世界から創造されたもので、そして彼ら自身の燃えるような想像から生まれたファンタジー・ワールド(幻想的な世界)が生み出したものなのだ。
「”俺たちは、”現実”について歌っているんだ”って吼えてるそこいらのバンドの一つじゃないんだ」、マーク・ボランに生き写しのような風貌のジョン・フラテリ(Vo、G)は吐き捨てるように言う。「俺達が暮らしている”現実”なんて、糞みたいなもんだ。ザ・フラテリスは、そんな糞みたいな現実からみんなを解放する音楽を作っているのさ。偉大なロックンロールは、”非日常/現実逃避”がテーマだ、そうだろ?」
そうかもしれない。しかし、ここ最近の6ヶ月でザ・フラテリスは彼らの夢を現実にするという偉業を成し遂げてきた。同じレコード店の窓に映画「スティル・クレイジー」◆(「スパイナル・タップなんて忘れちまえ!これこそロックンロール・ムーヴィーだ!」)への熱い想いを書きなぐった張り紙をした3人、ジョン、バリー(B、絶叫)、ミンス(Ds、Backing Vo)が意気投合し、自ら長く険しい道のりになるだろうと覚悟していたバンド活動を始めた。現実はそうでもなかったのだ。結成して6ヶ月もすると、ザ・フラテリスはロンドンでステージ立っていた。レコード会社はこぞってザ・フラテリスの争奪戦に加わった。ボーイフレンドの車の鍵を手に部屋に忍び込む女の子たち”、”16日間もの間行方をくらました生徒を躍起になって探す男たち”、”服装倒錯した妖精と一般の人の半分くらいしか教育を受けていないイカレタ人間”など、ザ・フラテリスが歌ういかがわしさに満ちた物語に魅了されたのだった。バンドの面々は気づく頃にはロサンゼルスにいて、ジョン曰く「直ぐに名盤になる」であろうデビュー・アルバムを、Beckの『グエロ』、『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』のプロデューサーとして知られるトニー・ホッファーとレコーディングしていた。
「みんな、ロサンゼルスがいかに味気の無い人工的な場所かって、とりとめもなく喋っている」、ジョンは笑って言う。「くだらない。スゲー場所だぜ、ロサンゼルスは。年がら年中雨が降っているグラスゴーから来た俺たちにとって、想像をかき立ててくれる最高な場所だって思ったよ。ここに来てから全てが一気に良い方向に進んだよ」
ロックンロール・バンド、ザ・フラテリスはファースト・シングル、「クリーピン・アップ・ザ・バックステアーズ」で善良なるイギリス国民をぶっ飛ばした。グラム・ロックに影響を受けた、凶暴で、手拍子のアクセントが効いた3分ちょいのこの歌は、(気の毒な友達)可哀想な野郎の女とこっそりやっちゃったていう話だ。その時既にブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ、エヴァン・ダンドゥ、ザ・パディントンズのファンも呆気に取られて身動きが出来なくなるほどの素晴らしいライヴ・パフォーマンスを披露していた。ザ・フラテリスがこの辺りでは最も刺激的で、ワクワクさせられるバンドの1つであり、安っぽいスリルと信じ難い話、そして長ったらしさを排除した簡潔な曲という典型的な組み合わせだけで勝負するバンドだということを証明している。
「俺は”流行を追いかけない”っていう考えが気に入ってる」、ジョンは言う。「ここ最近の流行っている退屈なバンドの1つには本当になりたくないんだ。俺たちはでかくなりたいし、みんなと繋がっていたい。それが俺達の計画/企み/考えなんだ」
刻一刻と時は進んでいく。だから、躊躇せずにザ・フラテリスの素晴らしい世界に足を踏み入れるんだ。結局最後には、幻想(ファンタジー)が現実よりも数段良いって気が付くはずなのさ!
2008年、自分たちのゴールを追及し完成させた。2作目に早くもセルフ・プロデュース。ファースト・アルバムよりもより実像に近いザ・フラテリスがここに存在する。ファンなら分かるザ・フラテリスの本質、魅力。セカンド・アルバムはよりソリッドなロックンロール・アルバムだと言えるだろう。
◆”STILL CRAZY”は、1998年にイギリス(日本は2000年)で公開された「ロックバンドを描いた映画」。70年代に人気を博したバンドSTRANGE FRUITの20年後の再結成を描いた作品。
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