先日ふらっと立ち寄ったバーで、ちょうどタメの青年と出会った
僕に似て、大人しく純朴そうな青年は、その場にいた店員に、趣味のハイキングや理想の女性について語っていた
(ちなみにその店員は自称ニートで、4年ぶりに店に立ったらしい)
“ええと、今何時かな”
“今9時半やけん、あと30分ぐらいかな”
“ほんとに現われんすかね…
ちょっとむずむずしてきましたよ僕は”
実は青年とこの店員は、バーに時折現れるという酒豪の為の飲み要員として呼ばれたのだ
“お客さんも気になるやろ、酒豪”
店員が話しかけてきた
“一回見てみたいですね……その酒豪と付き合うのはちょっとムリですけど”
“いや、俺も普段あんま酒飲まんけん、付き合えるかどうかわからんけどさ”
“でも、なんか酒強そうですよね?”
“いやマジで久々よ、酒飲むのも、こうして家族以外ん人と話しすんの
なんか嬉しいわ俺”
青年も横から
“僕もそんなに飲まないから大丈夫ですよ〜
てか4年ぶりに店に立つ人と飲めるとか、酒豪”に会うとか、なんかいいことが起こりそうな予感がしますね
もちろん、あなたに出会ったこともね”
“それはありがとうございますー
こうして出会ったのも何かの縁ですよね”
“ですねですねー
アルコールがつなぐ縁ってなんか魔法みたいですよね
今はSNSとかで簡単に人と繋がれるんですけど、そういうんじゃなくて、こう知らない人と一緒に飲める喜びを知っちゃったら、もうお酒やめられませんね”
“俺も今日改めて思ったわホント、こんなに人と喋れるんやな俺って気付かされたわー”
だが約束の時間に酒豪は現れず、青年はその場にいた客に、テキーラを奢ってくれた
初めてのテキーラに胸焼けした僕を尻目に彼は、次々と新たなボトルに手を付けていく
“あなたも飲まないと損ですよぉ!!”
アルコールの魔法にかかってしまった彼は、まるで今にも飛び立ちそうな子鹿のように、飲み続ける
その姿を見ながら店員は僕にそっと耳打ちした
“なんかこっちの魔法が溶けちまいそうやな‥‥”
一足先にバーを去り、ふらついた足で、ラーメン屋に立ち寄った僕は熱々の麺を啜りながら心のなかで呟く
“金使いすぎたな……”
アルコールの魔法は、善と悪が表裏一体らしい
その快楽に耽った者だけが見られる世界がそこにはある
そして、そこから抜け出せず、また求めてしまうのも事実だ
僕はまた、魔法にかかるべく知らぬ街へ繰り出してゆく……
※このストーリーはフィクションです
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