黒猫が屋敷から走り出て来る。何者かに追われているかのように。黒猫は一度振り返り、庭の林に逃げ込むが射られて死ぬ。たまたま、その場面に遭遇した少年とその黒い愛犬は犯人探しを始める。町の猫や犬、森の鳥達に聞き込みを始めるが人間はその事に何も関心を持たない。時折、何者かが邪魔や罠を仕掛けてくるが、愛犬の気転で何とかやり過ごせた。雑木林の廃屋に猫達が住み、その中に老いた賢い猫がいる。そこに何かしら答えがあることを知った愛犬と少年はそこに辿り着こうとしていた。そのため、廃屋に住むその他の猫達がそこに黒い犬と少年を近付け無いよう、邪魔をしていたのだった。黒い犬と少年がそこに辿り着くと、老いたその猫が一人の人間の半生を話し始めた。その話しを聞いていた少年は動悸を止めることが出来なかった。それは、少年の未来を語っており、猫を矢で射り、生きた猫の腹を割き、快楽を得る若者になるという顛末だったのだ。それを聞き、そこに集まった動物達、愛犬からも怒りを向けられる少年。苦悩の中で不吉な虹がかかり、万華鏡の空の下で少年は横たわる黒猫の背から矢を引き抜く。温かい血が手を伝わって肘まで流れてくる。その時の少年の眼差しに宿ったのは快楽への目覚めか、それとも命が失われることへの悲しみなのかは誰にも分からない。少年が何者であるかは、それぞれが、これからの少年の何を信じるかに託されているのである。廃屋から出て家路につく少年と黒い犬。もはや、少年に話しかける猫や犬、鳥、はいなくなった。愛犬も言葉を話さなくなる。本当の命に無関心な人間だけが、黒猫邸で少年の帰りを待っていた。少年は屋敷の部屋で眠りについた。
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