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説明文

ときどき思い出す。あのぬいぐるみはどこにいったんだろ?僕が手離したのか、それとも僕から離れていったのか。ううん。そうじゃないよね。捨てたんだ。その他の大勢の子たちと一緒にして子どもの知らないどこかにいってしまった。あのうさぎ。大人の手の中に収まるくらい小さなからだに、真っ直ぐな足と真っ直ぐな手が僕を抱き締めようと待ってるかのように大きく開いていた。いつも、片手にあのうさぎを握って家の中を行ったり来たりしてた。小さな頭に黒い小銭入れを被せて小さなヒーローになったり、一緒ににベッドに入れば、よそを向いたいじわるな冷たいシーツが少し温かくなった気がした。あと、僕はあの子が寒くないようにちゃんと肩までかけてあげたんだ。でも、大人になるため捨てた。男になるため捨てた。固くて尖ったロケットを背負ったロボットを選んだんだ。意味なかったよね。僕の世界に君ほど小さな子が入れるスペースなんて、いくらでもあったのに。どうしてあの子に僕の成長を見守らせなかったんだろう。ときどき思い出すんだ。あの小さなうさぎを。大人になるのに捨てなければならないものなんてない。あんなにいろいろお話しをしたのに。あの子は何でも知っていた。僕が恐がっていたクローゼットの闇もベッドの下のお化けとも話しができた。そこから出てこないようにしてくれた。その代わり下を覗いたり、戸を開けてはいけないと教えてくれた。冷たいこの世界を少しだけ温めるあの子がどこにいったか分かってる。その他大勢の子たちと一緒に燃やされ、ごみの中に埋められた。うさぎは僕の記憶のごみ溜めに埋もれて消えた。あの時のことを後悔しているよ。僕は今、ベッドの下を覗いてしまったんだ。真夜中に。どうか、教えてくれよ。君のアドバイスが必要なんだ。わがままなのは分かってる。でも、大人の男にはベッド下のお化けはどうにもならないんだ。耐えるしかない。馬鹿みたいだよ大人って。なぜ僕が君を捨てる前に何か言ってくれなかったんだい。馬鹿みたいだ男って。何にもできやしないんだ。
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