AWA
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説明文

80年代が遥か過去に帰っていってしまった今、女はBARで、片手に収まるグラスに、今日の日当分を琥珀色の濃い安らぎに変えて、グラスに注ぎ込んだ。それを少し口に含むと、過去への思いと今を考えることの狭間にある、闇と無音の谷間に体は深く沈みこんでいった。BARの良いところは、酔うためのバーテンダーという存在とウイスキーの厚みのある空気をそこで吸うことができるところだ。それをバーテンダーは日々保ってくれてる。酒に溺れた空気を気を利かせて換気することもない。座っている木製のカウンターも洋酒で磨き上げたような色をしている。女はグラスのウイスキーから目を離すこと無く、そんなことを考えていた。それとともに、岸の先に派手に灯っているネオンを正面に見ながら、浜辺を横歩きする蟹になり、ネオンサインの意味とこれから帰る湿って暗い穴蔵について考えていた。今、心の中では80年代に聴いていた音楽達が出入りしている。あの頃は格好いいと感じた音楽も、自分は、そこで歌われたとおりの惨めな人間になっていないか。一行の歌詞を追ってみる。苦笑混じりに思う。親友の旦那は奪っちゃいない。だけど、そんな気持ちは分かる。女は親友の旦那の髭を思い出しながら、自分のジャケットを摘まみ上げ、酒の匂いが染み込んでないか少し嗅いでみた。バッグの中の鍵が艶を纏って、こちらを見ている気配を少し感じた。
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