わたしの心はいつになく軽やかで、重力の軽減に合わせて両足が地面から離れてゆくような緊張感も同時に味わっていた。アクセサリー選びを愉しいと感じたのは後にも先にもあの日だけだろう。逸る気持ちを抑えながら自宅を出たところで強烈な既視感に襲われた。ラボで日々目にしていた光景が数万倍の規模で眼前に広がっていたからだ。見慣れた街並のすでに半分以上がグレーの塊となり、晴天の青空とのトリコロールを描いている。数時間後、極小機械の群れは各国の主要都市を飲み込んだ。映画を観に行くはずだった。静かにヒットしつつあった「犬の耳を掴む」は、最後の劇場上映作として記録されている。
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