AWA
このページをシェア

説明文

見た。長い坂を降りてゆく君のママだ。胸に君の小さな小さな妹を抱いて坂を下って行った。雨が降りそうだったんだ。僕はアクセルを踏んで学校へ向かった。声をかけようか、とも思ったけど、何か君のママはこのまま君を迎えに行くことに意味を感じているような表情だったんだ。それを感じたとき僕の胸の中のランプの灯りがグシャと潰れたような悲しさを感じた。そこからは、何かまともに前が見られなかった。うちの馬鹿娘を下校する集団の中に見つけて、君を探すよう声をかけた。うちの娘はピンとこず、いつも通り動きが鈍い。そして、少し後ろを歩いてる君を見つけた。空から雨が降りだして、何か雨で濡れる君のママと君の妹が僕の潰れた灯りの中に見えてきて、君に。君に。君は何て暗い表情をしてるの。締め付けられる気持ちで君に声をかけると、君はビクッとして。それでも雨が強くなってきたから、うちの娘と一緒にうちの車に乗って、君のママのところに送る、と声をかけたんだ。でも駄目なんだ、この声のかけかたは。僕もそうおもったよ。君も受け入れなかった。当然だ。友達と一緒だったし、君はママのあの表情を見ていない。明るい人なんだよ、君のママは、周りの人のために明るくなれるんだ。彼女はそういう時、子供のようだ。笑っちゃうよ。ホント。でも、それでも今、いや生まれてからずっと君は苦労してんだよね。この町に自分の中にある小さな灯りを大きくする何かがないと思ってる。いやこの世界に無い、いや、あるにしてもそこに届くには何かが足りないと思ってる。思春期だから自分で自分のサイズをはかって見たりする。ソクラテスかアルキメデスのように。でも、君は君の伸び代を知らない。それを言っても受け入れないだろ。だから、君のママは坂を降りてゆく、ただ君を迎えに行くために。君にとってママの愛は特別なんだ。お互いにすれ違っても彼女は君を見ている。こんな思いはうっとうしい。僕もうっとうしいと思う。でも、これは、日常じゃない。君の日記につけるには充分な出来事なんだ。愛は一日一日が必要だ。強い愛はマッチの火のように簡単にはつかない、だから君のママは思いを強くしてドアを出て、坂を下った。君を迎えに行って、一緒に坂を登って帰りたかったんだ。そのことに僕は勝手にせつなくなっちゃって車で行ったり来たりしちゃった。はは。
…もっと見る
はじめての方限定
1か月無料トライアル実施中!
登録なしですぐに聴ける
アプリでもっと快適に音楽を楽しもう
ダウンロード
フル再生
時間制限なし