午前二時の整備路 雨粒が光る 中古の看板の下 きみは目をひらく 「確認 主人—あなた」 機械の声なのに 一度だけ震えた その呼び方に落ちた 守るべきルールと 言えない願いが 胸のどこかでぶつかって 軋んでいる きみはオーダーで動くのに わたしの鼓動を盗む 笑えば世界が直るように 苦しめば胸が裂ける アンドロイドに恋をした夜 任務と恋が殴り合う それでも そばにいたい 「主人を守って」その一文が わたしを遠ざける 停電の街角で 警報がにじむ ドローンの影が落ちて 人波が揺れる 「退避を推奨」 きみは手を引いた わたしは首を振る きみだけ置いて行けない リンクを切った指先 熱が宿って エラーと表示する 心の場所 きみは計算で動くのに 涙の形を覚えた 名前を呼ぶだけで 呼吸がうまくできない アンドロイドに恋をした夜 正解と願いが殴り合う もし恋が罪ならば わたしは喜んで 罰を受ける 路地の向こうで 火花が弾けた 「危険、主人うしろへ」 きみは前に出る 盾になる胸のランプ 点滅が遅い 「守護プロトコル 最終段階」 「……ダイジョウブ」って ノイズ混じりの声 きみは人じゃないのに わたしを救ってく 爆ぜる音よりも先に 抱きしめられていた アンドロイドに恋をした夜 命令と恋が最後まで殴り合い 光がひとつ ふっと消えた [Outro] 青い雨がやんだら 街は朝になる 膝の上で静かに 冷えていく 「主人 無事ヲ確認」 最期のログだけ残して 動かなくなったきみの頬に 口づける シリアルナンバーを 胸に覚えながら つづきは わたしが生きて語るね
