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ニーナ

Track by矢野絢子

674
24
  • 2004.10.13
  • 11:59
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歌詞

その椅子は木で出来た丈夫な椅子 こげ茶色のクッション木彫り花模様 肘掛 背もたれの両端には小さな赤い石 それはそれは美しい木の椅子だった その椅子を作ったのは椅子職人の爺 さん 曲がった腰慣れた手つき鋭い目 出来上がった椅子があんまり美しか ったので 死んだ妻の名前をこっそり入れたの さ 店先に置いた椅子はすぐに客の目に 留まり やって来る客についつい爺さん「売 り物じゃない」という 何人めかの客が来てしばらく話し 爺さんはついに言った「売りましょ う」と 椅子は大きな屋敷の大きな広間に置 かれた 毎夜止まぬ音楽と夢のようなダンス の日々 主人はいつも椅子の前に座り椅子に は いつも美しいドレスの女が腰掛けた (♪) 時は砂のように流れ屋敷は古びてゆ く 主人が椅子だけを眺める日々が続い た 美しいあのドレスの女は現れなかっ た 音楽はやみ主人は立ち上がった ある朝椅子はたくさんの家具とトラ ックに乗った 椅子は海を渡る旅をした 揺れる揺れる船の底荒い波の音 夜更けにかすかに聞こえるピアノの ワルツ 少しだけくたびれた椅子を乗せて 旅を終えた椅子は一人暮らしの老婦 人の元へ いつもきちんとした身なりパンを上 手に焼く 飼っている猫は灰色の老猫で 椅子の上に丸まって婦人の話をよく 聞いた 話しはもっぱら夫の話 もう十年もあちこち旅をしてる 愛しい人の手紙を少女のように猫に 聞かせる (♪) 婦人の足が悪くなり日がなベッドで 横になる 傍らにはいつも椅子と灰色猫 何度も同じ手紙を大事に大事に読み 返す よく晴れた昼下がり眠る婦人の枕元 一人の男が現れた 古びた椅子に座り古びた婦人の手を 握り そして眠る婦人にそっと口付けした のさ 猫はナァナァないていた 古道具屋の暗い部屋でも椅子は人の 目を引いた めがね主人は丁寧に椅子の傷を取り がたを直した クッションはここで赤い茶色に張り 替えられた よく笑う若い夫婦は一目で椅子に目 をつけた 椅子は始めたばかりの小さなカフェ の窓辺 若い夫婦はよく働き椅子はいつもピ カピカ その年妻は子供を宿し 夫婦は抱き合って喜んだ (♪) 何度も壊れ直された足はちび肘掛は 擦り切れたが 小さな赤い石はきちんと二つ光って る 今ではもう五歳になった娘はやんち ゃな悪戯っ子 椅子の下海底ごっこ思わず目を輝か す 「何か彫ってあるよ母さん ねぇ、素敵だわ きっとこの椅子の名前だわ わたしと同じ名前なのね」 ニーナ!ニーナ! 娘は椅子をそう呼んだ (♪) その晩椅子はいつもの窓辺 夜空は水のように澄み切っていた 誰にも聞こえない小さな音が 椅子から溢れ始めた (♪) カフェの常連 大きなお尻 夫婦の笑い声 けんかの声 めがね主人の咳払い 埃っぽい古道具屋 老婦人のお話 猫の尻尾 現れた男の涙 揺れる船の底 波の音 ピアノのワルツ 大広間の音楽 絹のドレス 男の眼差し ショーウィンドゥの前行き交う人々 木屑の匂い 力強い掌 しわがれた声 「ニーナ」 次の日娘が目を覚ますと 椅子は足が壊れて窓辺に転がってい た 夫婦は娘の髪を撫でた 「もうお疲れ様と言ってあげよう」 その椅子を作ったのは椅子職人の爺 さん 曲がった腰慣れた手つき鋭い目 出来上がった椅子があんまり美しか ったので 死んだ妻の名前をこっそり入れたの さ

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