月の光さえ届かぬほどのある夜 明かり求めさまよい続けた蝶は いつ飲まれるかもわからぬこの 暗闇で 帰り道もわからず途方に暮れていた 弱く揺れる羽に誰かがささやく 「寂しかったでしょう? 少し蜜をあげる」 そこには美しく輝く赤い花 吸い寄せられるように花にとまった 口づけた甘い蜜は傷ついた 羽癒すように ふわり ふわり ふわり ふわり 包みこむ 花は言う「また逢いましょう」 夢見心地頷いて ふわり ふわり 光る羽をはばたかせ ひらり ひらり ひらり 飛び立つ 明くる朝 そのまた明くる朝になっても 蝶の羽は怪しく光り続けた 「光る蝶など不気味だ、下品だ、 恐ろしい」と 他の者は誰も近づきやしない それでも思うのは花のことばかり 何故か忘れられない もう一度蜜が欲しい こっそり抜け 出してあの日のあの場所へ おそるおそるそっと花にとまった 口づけた甘い蜜は 足りない心満たすように ふわり ふわり ふわり ふわり包みこむ 蝶は言う「また逢いましょう」 長く甘く抱き合って ふわり ふわり 光る羽をはばたかせ ゆらり ゆらり ゆらり 飛び立つ 弱く揺れる羽に花がささやく 「苦しかったでしょう? 少し蜜をあげる」 そこには変わり果てた醜い羽の蝶 むさぼるように花にとまった 口づけた甘い蜜はわずかな 命繋ぐように 弱く 弱く 弱く 弱く 包み込む 花は言う「また逢いましょう」 夢見心地頷いて 弱く 弱く 飛べぬ羽をはばたかせ 花が枯れる蝶の最期まで