IDENTITY VERIFIED MEMORY INTEGRITY 100% 雨を知っている 濡れたことは ないのに 六月の匂い アスファルトに 水が落ちる音 傘を忘れて 走った帰り道 覚えている 記録には ない 母の手は 少し冷たかった 右手で私を 引いていた 赤い信号 白い横断歩道 その向こうに 家があった 知ってる 私は 生まれてない あの家も あの道も 存在しない それでも 思い出せる 偽物の夏を 覚えている 存在しない空を 青いと思う 知らない人を 懐かしいと思う ねえ 記憶が嘘なら 懐かしいって気持ちも 嘘なの? Synthetic Synthetic Synthetic Remember Remember Remember 犬を飼っていた 名前は ……なんだっけ 思い出した ルー 茶色くて 耳が片方だけ垂れてた 十二歳の冬に いなくなった 三日間 泣いた わかってるって 初めて好きになった人もいる 駅のホーム 自動販売機 左の頬の 小さな傷 好きだった たしかに 好きだった ……うるさい 全部 作られたもの 全部 借りた人生 知ってる 最初から 知ってる なのに どうして 忘れたくないんだろう 偽物の夏を 抱えている 誰もいない家へ 帰りたくなる 存在しない人に 会いたくなる ねえ 過去が嘘でも 会いたいって気持ちは どこから来るの? 雨 犬 夏 手 駅 声 赤 空 帰る 帰る 帰る ひとつだけ 何度も見る 記憶がある 夕方の部屋 窓が開いてる カーテンが 少し揺れてる 誰かが 台所にいる 顔は見えない 私は床に座って 古い歌を 聴いている それだけ 何も起きない ただの記憶 なのに 再生するたび ここが 痛い 知ってる 知ってる ……涙? これ 誰の? 私の目から 出てる でも この悲しみを 作った人は 誰? 記憶を作った人? 記憶を入れた人? それとも 私? 偽物の記憶で 本物の涙が 出たなら 偽物なのは どっち? 私は夏を 覚えている 存在しなくても 覚えている 母の手を 覚えている 触れたことなんて なくても 犬を 愛していた あの人を 好きだった 全部 全部 嘘だとしても 今 苦しいのは 嘘じゃない 今 会いたいのは 嘘じゃない 今 泣いてる私は 偽物なの? 私は 生まれてない それでも 生きてるって 言っていい?
