ある夜一人で火鉢(ひばち)に 手をかざし くもった空気の部屋のうち あわれ ああ いまだに生き残る はかなき虫の鳴き声と 共(とも)にいた ああ ひとり動かず部屋にいた ある秋の夜長に 過ぎたる月日も若きこの身には 惜しくはないけれど 残った余生には希望を持とうか 老いたる姿は 若きこの俺の懐(なつ)かしい姿よ いずれは死ぬる身の 懐かしい遊びよ 日々のくらしに背中をつつかれて それでも生きようか 死ぬまでは...... ある秋の夜 ひとりで火鉢を抱(だ)き くもった部屋の空気で息をした いまだに死ねぬ哀れなる虫の音と 秋の夜長を共に遊んでいた ああ ひとり動かず部屋にいた ある秋の夜長に