「拝啓―― 君は僕の眼の前に突然現れ微笑んだ 僕の手をぐいと引っ張って どこかへ向かって走り出した 悪い気分じゃなかった 疑うこともしなかった きっと恋でもしていたのでしょう 過去の栄光はまばゆく光り 未来の可能性の芽を踏み潰す 僕はそれが怖くなって いつからか君との距離を置いた ありがとう そして さよならは 君が呟く惜別の言葉じゃない 臆病者の僕の君宛ての別れ 君はどうかそのままでいてほしいん だ」 手紙の文字は他人行儀そしてドライ で 感傷も感慨も当然ように湧かず ドラマなんて期待しない 羽のように軽い記憶 当たり前に一緒にいて 当たり前にすれ違った 「輝く出口を作るんだ 大人たちはそう言い出した 未完成のままで放置された 架けた橋はやがて腐りだした 高く築き上げたものを 守ることだけ考えて 出口は扉堅く閉ざす もう音楽は十分揃い 新しいものはいらないと叫ぶ ベタな三文小説(ものがたり)を捨て た 冷たくて現実的な終点(おわり) ありがとう そして ごめんねは 君が呟く後悔の言葉じゃない 嘘つきの僕の乾いた懺悔 君はどうかそのままでいてほしいん だ」 「終わらないお祭り声は遠く 感動はやがて薄れゆく お面を深く被るお囃子に 有体に言えば――」 「<<手紙が破れていて読めなかった >>のです」 「ありがとう そして さよならは 君が呟く惜別の言葉じゃない 臆病者の僕の君宛ての別れ 君はどうかそのままでいてほしいん だ」 「――幸せを願っています 敬具」 また会う日まで……