ここにある一つの儚い舞扇 柄のないこの扇に宿る彼の命よ 昔桜舞い散る京の都で暮らす 名も無い絵かきの男は一人筆を執り 色のない扇に 桜の花びらを散らせては彼の命描く 恋焦がれ風吹けば尊し 色に染め上げられた扇よ 今宵あなたへの募る愛を この舞にのせ歌ふ ここにある一つの美しい舞扇 一面に描かれた桜の花扇 あれは雨降りし日に朝の東屋へ 一人駆け込んできたあなたとの出会 い その雨に濡れた横顔 惹かれて少しずつこの心寄せた 黄昏にたゆたうこの想い 言の葉に載せ想い伝えた 春雨に暗れ惑うあなたは 一言だけを残して・・・ 散りゆく桜の花びらは 彼の命だけ奪い去って 春霞の中消えるあなたの 背中追い続けた―― 恋焦がれ風吹けば尊し 色に染め上げられた扇よ 今宵あなたへの募る愛を 舞にのせ歌えば 夜半の彼方へ続く ここにある一つの儚い舞扇 桜散る暁に今あなたの元へ・・・