籠の夜は明けぬ 掻き切られた頚(くび) 泥濘(ぬかるみ)の跫音(あしおと) 佇む白い影 また一人 消える 錆びた金属音 寄らば喰らう闇は奈落の底 だらりと下げた両腕 白いワンピースの女は 腰まで伸びた長い黒髪を絡ませ 爪の剥がれた指先は 不揃いに浮腫んでいた 墟(きょ)の招きは渦に 黒猫の間延びする残響 呻(うめ)く軋みを金切り 喰らい合い引き裂いた 喘ぎ 剥がし 剥ぎ出す 臓腑(ぞうふ)を 掴み 潰し 引き摺る 声 「うしろの…」 歪む砂嵐 縁取る輪を這い 落ちた天袋 終わりの始まり 二つの怪音が 螺子巻き 鼓膜を突き立てる 垂れ下がる黒に裂き 赤く濁る呪の災禍(さいか) 嗄声(させい)する四肢に 裂き身を捩る漆喰(しっくい)の怨 どろりとした猫の鳴き声 四つん這いの女は 滲み出る自らの血に手や足を滑らせ 何度も顔面を打ち付けては 血の泡を吐き流す 呻(うめ)く軋みを金切り 赤黒く呑み込み合う 飛散し 蠢き 脈動に溶け爛るは 拝啓、井底の宵 融け合う怨嗟は這い出づる