拝啓、空色 泳ぐ風に這う波 春の目を擦っている 拝啓、雨音 バス停の影に紫陽花 アスファルトが吐く煙の向こう 見えなくなって 今 僕を攫ってみせて 空へ その名前を呼ぶまで 思い出の全部に水をやる この足はまだ 未だ 土に埋まったまま 会いに行けないまま 拝啓、月見夜 芒原は和膚 撫ぜる風が奪っていく 拝啓、白い足跡は切り取り線 埋める雪待つ暇もなく遠く 見えなくなって あぁ 今 風を纏ってみせて 空へ その種が芽吹くまで 雲泳いだ晴れに戯の雨 この声はまだ 未だ 土に還るだけだ 拝啓、空色 窓越し 部屋に一人きり 僕は目を擦っている 今 僕を攫ってしまえ 夜へ 何もかも見えぬまで 思い出の全部よ 消え去れ なんてできるはずなくて 今 僕を攫ってみせて 空へ その名前を呼ぶまで 思い出の全部に透けている その顔はまだ 未だ 手も足もまだ 未だ あの空の向こう側