AWA

芸人の墓

319
7
  • 2012.12.07
  • 9:00
AWAで聴く

歌詞

ある日ひとりの娘がたずねてきた ギャグを読んで男に 会ってみたくなったのだ 男はひと目で娘が好きになって すぐにすらすらギャグを書いて 娘に捧げた それを読むと娘はなんとも言えない 気持ちになった 悲しいんだか嬉しいんだか 分からない 夜空の星を手でかきむしりたい 生まれる前にもどってしまいたい こんなのは人間の気持ちじゃない 神様の気持ちでなきゃ 悪魔の気持ちだと娘は思った 男はそよかぜのように娘にキスした ギャグが好きなのか男が好きなのか 娘には分からなかった その日から娘は 男と暮らすようになった 娘が朝ご飯を作ると 男は朝ご飯のギャグを書いた 野苺を摘んでくると 野苺のギャグを書いた 裸になるとその美しさを ギャグに書いた 娘は男が芸人であることが 誇らしかった 畑を耕すよりも機械を作るよりも 宝石を売るよりも王様であるよりも ギャグを書くことは すばらしいと娘は思った だがときおり娘は寂しかった 大事にしていた皿を割ったとき 男はちっとも怒らずに 優しく慰めてくれた 嬉しかったが物足りなかった 娘が家に残してきた 祖母の話をすると 男はぽろぽろ涙をこぼした でもあくる日には もうそのことを忘れていた なんだか変だと娘は思った けれど娘は幸せだった いつまでも 男といっしょにいたいと願った そう囁くと男は娘を抱きしめた 目は娘を見ずに宙を見つめていた 男はいつもひとりでギャグを書いた 友達はいなかった ギャグを書いていないとき 男はとても退屈そうだった 男はひとつも 花の名前を知らなかった それなのにいくつもいくつも 花のギャグを書いた お礼に花の種をたくさんもらった 娘は庭で花を育てた ある夕暮れ娘はわけもなく 悲しくなって 男にすがっておんおん泣いた その場で男は涙をたたえる ギャグを書いた 娘はそれを破り捨てた 男は悲しそうな顔をした その顔を見ていっそう烈しく 泣きながら娘は叫んだ 「何か言ってギャグじゃないことを なんでもいいから私に言って!」 「何か言ってギャグじゃないことを なんでもいいから私に言って!」 芸人の墓 芸人の墓 芸人の墓 芸人の墓 男は黙ってうつむいていた 「言うことは何もないのね あなたって人はからっぽなのよ なにもかもあなたを 通りすぎて行くだけ」 「いまここだけにぼくは生きてる」 男は言った 「昨日も明日もぼくにはないんだ この世は豊かすぎるから 美しすぎるから 何もないところをぼくは夢見る」 娘は男をこぶしでたたいた 何度も何度も力いっぱい すると男のからだが透き通ってきた 心臓も脳も腸も 空気のように見えなくなった そのむこうに町が見えた かくれんぼする子どもたちが見えた 抱き合っている恋人たちが見えた 鍋をかき回す母親が見えた 酔っぱらっている役人が見えた 鋸で木を切っている大工が見えた 咳こんでいるじいさんが見えた 倒れかかった墓か見えた その墓のかたわらに 気がつくとひとりぼっちで 娘は立ってた 昔ながらの青空がひろがっていた 墓にはギャグは なにひとつ刻まれていなかった 「何か言ってギャグじゃないことを なんでもいいから私に言って!」 「何か言ってギャグじゃないことを なんでもいいから私に言って!」 芸人の墓 芸人の墓 芸人の墓 芸人の墓

このページをシェア

水中、それは苦しいの人気曲

水中、それは苦しいのアルバム

この曲を含むプレイリスト

水中、それは苦しい
の他の曲も聴いてみよう
AWAで他の曲を聴く
はじめての方限定
1か月無料トライアル実施中!
登録なしですぐに聴ける
アプリでもっと快適に音楽を楽しもう
ダウンロード
フル再生
時間制限なし