夜は雨を隠す 薔薇の花たばを胸に抱いて 横たわる夢 ( 夕日に食らいつくされた色彩が 樹木の陰で息をひそめるとき ――わたしは歌っていた。 冷めた沈黙が音叉を震わせるとき ――わたしは歌っていた。 コンクリートに撥ねたまるく透明な 雫が 自動ピアノの最後の駆動と 朽ちたビルを徘徊するように ――わたしは歌っていた。 銀いろの鱗を剥がした 両手いっぱいになるまで 一筋の赤をとりまき浮かびあがり 波しぶきを輝かせる 沈黙したまま 叫ぶ 千切られた夢には持ち 主がもういなかったが それなら盗み 取ることもできるだろう そうしてわたしは研いだ鱗で ゼンマイから影を、 映写機から光を、削り取ろうとした ) 電燈がまたたいた曇りガラス 月は海には帰れない 朽ちるビルの夜明け トランジスタラジオの紡ぐ モザイクまじりのニュース ( 衝動を隠す海流 クジラもクラゲも青く白い渦になる 槐のひとひらが落ちて ころげおちる夢の残骸が 岸辺に漂着したとき それの名前を 知るものはだれもいなかったので 壊れものをつまむような指で拾い 砕いた あたらしく生まれる芽はまだ 土に眠り わたしの心臓は花弁となって 無窮の空に拡散する ) ある朝のありふれた 変わらない挨拶が エラーを吐き出す まるでなにもない過去の日に沿って ( 鋳型に押し込められた 指先から伸びた枝に鋏を入れて いまにも走り出しそうな少女の目を わたしはおぼえている ) 沈黙は泡に包まれ消える 叫びは薄く空気に希釈される 薔薇を空に投げたら 取り戻して ( わたしの歌を/言葉を/夢を/ 音楽を ) 甘い夢と不在の現実を 永遠を装う時間をよそに 音楽は響きわたる 翅の音で震わす
