ボストンバッグの底に見つけた 趣味の悪いお守りは 十中八九あなたがわたしに 持たせたものでしょう 忘れていたのはきっと思い出すと 帰りたくなってしまうから 張り詰めていた心の柱が すっかり折れてしまう気が してたのでしょう 乾いた風が抑えきれず 東京の街に雪を降らす頃 帰りそびれた男の横には入れかけの 荷物とボストンバッグ 笑った顔も泣いた姿も なぜかうまく思い出せずに 残っているのは 本音を見せない寡黙なあなた 誰より不器用なあなたが 近頃とても愛おしいのは 寂しいわけじゃないんです ないんです いつかはあなたも私より先に 死んでしまうでしょう 想像すらしたくもないのに なぜでしょう最近考えたりします ボストンバッグひとつで 家を出るまで ずっと一緒にいたはずなのに 私の知っているあなたといえば… 東京は思ったほど 住みづらい街でもないようで ひと懐っこく舞う雪に 女は精いっぱい微笑んで見せる 笑った顔も泣いた姿も なぜかうまく思い出せずに 残っているのは 普段通りに手を振るあなた 誰より強いあなたのことが 近頃とても愛おしいのは 寂しいわけじゃないんです 変わってゆく東京の街は 今日も少し掴みづらくて 懐かしいような からかわれてるような雪の夜 誰より近いあなたのことを こんなにも遠く感じるのは 寂しいわけじゃないんです ないんです