譜ヒ叫ブ 唯 貴女二 届クヤウニト 櫻吹雪が舞ひ踊る 麗(うら)らかな日を想ふ度(たび) 踏み躙(にじ)られた 薄氷(うすらひ)の如くに 軋(きし)んでゆく吾(わ)が心 響き止まぬ耳鳴りは 凪(な)ぐこと無き 海の狂濤(きやうたう) 澄んだ鈴の音(こゑ)も今は 遥か遠くて 唯 譜ふ 暴れ狂ふ激情さへ糧にして 此(こ)の罪を 此の罰をも 流るる血に変へ乍(なが)ら 唯 叫ぶ 揺らぎ惑ふ 哀傷(あいしやう)さへ振り切つて 囚はれた儘 何処へも行けはしない 解けぬやう結び切つた朱き誓ひを 果たす迄(まで)は 薄明かりにて 言の葉を一ツ一ツと綴る度 積み重なつた 石塔(せきたふ)の如くに 傾(かし)いでゆく吾が心 幾度となく伸ばした手 空を切つて目を醒ます 今宵こそは間に合へと 祈つて居ても 唯 譜ふ 白い蝶を 殺(あや)めた日の妄執(まうしふ)を あの微笑(ゑがほ) あの調(しらべ)を 今一度(いまいちど)と乞ひ願ふ 唯 叫ぶ 冷えゆく手に 縋(すが)つた日の愁嘆(しうたん)を 目を伏せて 息を吐いて 背を向けても 櫻(はな)も雨も月も全て貴女へ至る 辿(たど)るやうに 吾等(われら)ノ往(ゆ)ク路(みち) 阻(はば)ムト云フナラ 何人(なんぴと)タリトモ 容赦ハシナイ 鬼ガ出ルカ蛇ガ出ルカ 葛籠 開(ひら)イテミルガイイ 綾取(あやと)リ辿ツタ糸ノ先ハ 宛テ無ク縺(もつ)レ 指折リ紡(つむ)イダ数(かぞ)ヘ譜ハ 十五デ閊(つか)ヘ 囀(さへづ)リ違(たが)ヘタ雀ハ嘆ク 柔ラカナ残滓(ざんし)ニ覚醒ヲ拒ミ 夢現(ゆめうつゝ)ノ境デ 汚泥(をでい)吐キ出ス 寂寞(じやくまく)ヲ 貴女ガ何時カ教ヘテ呉レタ 其ノ調(しらべ)ヲ 口遊(くちずさ)メバ 夜毎薄レユク面影モ 留(と)メ置ケルト信ジタ 黄泉の国へ キツト伝ふと 今 譜ふ 最早厭わぬ 臓腑を絞り尚譜ふ 晦冥(くわいめい)の慟哭は唯 恋しい貴女の為 今 叫ぶ 舌が縺(もつ)れ 地を這へども尚叫ぶ 此の痛み 此の悲願よ 理(ことわり)さへ覆せ 今 譜ふ 咽(のど)に滲む 鉄錆をも飲み下し 此岸(しがん)故(ゆへ)に届かぬなら 渡る迄と 内に盛(さか)る此の焔(ほむら)に 焼かれ果てても 構ひはしない