ぼくは今、地平線に立っている ここには古い水門がひとつあって それが、夜が昼に 流れこむのをせき止めている だけど、もう少しして日が沈み 夜の量が今よりふえたら 水門はもうそれ以上 夜をせき止めておくことはできないだろう ぼくは今、地平線に立っている 日没にひとりの男がやって来て 長い弦を夕日に垂らしたまま バイオリンを弾き始める その美しい音につられて 夕日の輝く水たまりの中から 今はもういないといわれている 幻の魚が何匹も釣れるのさ ぼくは今、地平線に立っている ほら、あの古い水門ときたら まるで船の操舵室のようじゃないか どれどれ、ぼくが操舵手になって この巨大な船を動かしてやろう いやなものも素敵なものも なにもかも全てこの船に乗せて 日暮れにむかって船出しよう ぼくは今、地平線に立っている 太陽はもうとっくに消えてしまった この暗闇の中でこんど光に出会ったら ぼくはそいつを自分の鏡にしよう 長い長い時間は男を船乗りにする ほら、港で待つ恋人の姿が見えるだろう 水門はまたしてもきのうに取り残されたけど もうあしたをせき止める作業を始めてる