「こんなちょっとだけ 残すんやったら食べたらええやん」 あとで食べよー思って残していた アイスを見つけられ 母親に指摘される 「あとで食べんねんから 置いとってよ」 子供の子供たる部分を 言い当てられたようで恥ずかしく ムキになって言い返すも 不思議に思ったのを覚えている お母さん 何でそんなうれしそうなん? 自宅の冷凍庫を開けると 「そういや買った」 ハーゲンダッツが入っていた ソファーにもたれ フタをあけると すでに手をつけられ ちょっとだけ残っていた 俺は食べてないから ヨメしかいない 「こんだけやったら もう食べたらええのに」 いつかと重なる 人と暮らすってのは 自分のじゃない跡と生きることだ 昨日飲みすぎたバツの悪さもあり 準備だけでも手伝おうと 冷蔵庫を開ける 買い出しはすでに終わっており 見た感じ どうやらカレー いやいやこれは引っかけ 正解を紐解くためのカギは糸コン 鍋に水を張って 塩を投じ ガスの火を強 窓の外は陽も落ち 今日という日ももう… 「じゃがいもだけでも 先下茹でしとこう」 「ティッシュ取って」って意味で 突き指した 人指し指 「今ティッシュに指 届いてなかった? "ティッシュ取って"っていうその 手の動作でティッシュ取れたやん? てかそっちの方が近いやん?」 「うるさいなー」 男はすぐメジャーで距離を測る 女は「細かい」とその手を叩く 「愛してる」よりも 愛情に満ちた言葉 食事中に発する 「タレつけすぎ」 「価値観が違うから別れましたわ」 バイト先の喫煙所 得意そうな後輩 きっとこの後輩には その内にまた別の新しい価値観の 違う彼女が出来ることだろう 個性と個性の同居ではなく 同居して出来上がる個性がある それは足して÷2って単純じゃなく その個性も屋根の下で共に暮らす 夜勤から帰ってきたヨメが ソファーに倒れ そのまま眠り 寝言で「眠たい」と言った 「楽させてやらな」 何回うそついた? 「次のアルバムは ゼッタイ売れるから」 他の人のんと一緒ならんよーに ペットボトルのフタにひらがなで 書かれた 頭文字の"ご" 免許証や保険証で見るよりも はるかに俺は この人の名字を変えたんやと思った 「今日送迎会やから テキトーに食べといて」 「そうか」 寂しそうに見せかけるが 内心では浮かれている (何食べよ? 風呂行こか? ビール買わな! 日本酒もや! パニックやわ…) 買ってきた寿司を 皿に盛りつけながら 部屋の中で一人ガッツポーズした 缶をプシュッとした時 ガチャッ…と 玄関の方で鍵をさす音 「帰って来るなや」 ずっと一緒長いこと居すぎてるから 胸の中にあるのは 「好き」だけじゃない 何かよー分からんが 妙に機嫌いい時とか それはそれで 小憎らしかったりもする 相も変わらずケンカは絶えない けれどいつも知らん内に 解決してるのは 二人が向き合うことを 避けたからじゃなく 同じ方向を向いたからだろう 「順番的に俺ちゃうやん?」 ブツクサ言いながら 洗い物をしてる時にいつも思うのは こんな状況も 昔の俺がもし見たら めちゃめちゃ うらやましがるんやろうな? 「まじで!結婚できたん? すげーやん!皿ぐらい洗えよ! お安い御用やん!」 水の音に紛れ込んで聞こえた声が いじるように尋ねる Where is happiness ?