汽笛一声 新橋を, はや我が汽車は離れたり, 愛宕の山に入り残る, 月を旅路の友として, 右は高輪 泉岳寺, 四十七士の墓所, 雪は消えても 消え残る, 名は千載の後までも, 国府津おるれば馬車ありて, 酒匂、小田原 遠からず, 箱根八里の山道も, あれ見よ雲の間より, 遥かに見えし富士の嶺は, はや我が側に来りたり, 雪の冠 雲の帯, 何時も気高き姿にて, 駿州一の 大都会, 静岡出でて安倍川を, 渡れば此処ぞ宇都の谷の, 山きり抜きし洞の道, 名高き金の鯱鉾は, 名古屋の城の光なり, 地震の話しまだ消えぬ, 岐阜の鵜飼も見てゆかん, 東寺の塔を左みて, 止まれば七条station, 京都京都と呼びたつる, 駅夫の声も勇ましや, 東に立てる東山, 西に聳びゆる嵐山, 彼と此れとの麓ゆく, 水は加茂川 桂川, 送り迎うる程もなく, 茨木吹田うちすぎて, はや大阪に着きにけり, 梅田は我を迎えたり, 三府の一に位して, 商業繁華の大阪市, 豊太閤の築きたる, 城に師団は置かれたり, 神戸は五港の一つにて, 集まる汽船のかずかずは, アメリカ ロシア シナ インド, 瀬戸内がよいも交りたり, 思えば夢か時の間に, 五十三次走り来て, 神戸の宿に身を置くも, 人に翼の汽車の恩。