風は 或るとき流れて行つた 絵のやうな うすい緑のなかを、 ひとつのたつたひとつの人の言葉を はこんで行くと 人は誰でもうけとつた ありがたうと ほほゑみながら。 開きかけた花のあひだに 色をかへない青い空に 鐘の歌に溢れ 風は澄んでゐた、 気づかはしげな恥らひが、 そのまはりを かろい翼で にほひながら 羽ばたいてゐた…… 何もかも あやまちはなかつた みな 猟人も盗人もゐなかつた ひろい風と光の万物の世界 万物の世界 傷を 或る朝眺めて みた 繰りかへす 蒼い時間の中で ひとつのたつたひとつの人の言葉に 心をなくし 人を恐れて泣いてゐた そしてあなたの美しい詩に 声重ね 思ひ寄せるときに この空つぽな私の中に 深い宇宙にまたたく星が 広がるだろう 夢みたものは ひとつの愛 ねがつたものは ひとつの幸福 それらはすべてここに ある と 何もかもあやまちはなかつた そう すべてここにあるとわかつて ゐた ひろい風と光の万物の世界 万物の世界