日本中のオオカミが狩り尽くされた と言われて しばらく経った頃でした 妻を亡くした猟師は娘と二人で暮ら しておりました その年は不作で村人達はいつも腹を 空かしておりました 姿に 心が現れる 切ない時こそ なお美しく 派手な姿 刺激ずるぞ 村人を 大丈夫よ 山に行くの 見られはしない 縛られたくない つらい毎日に このからだと 心だけは ねぇ わたしのもの いい加減に 自由にさせて この気持ち わかってくれる人はひとり きっと母だけ あれはもしかしてオオカミ? もう狩り尽くされたと亡き母は言っ ていた。 鋭い眼 恐ろしいわ だけど なんて美しいの。 心の豊かさが現れているのね 父さま、今帰りました なんなの、 家の中がめちゃくちゃだわ なぜ捕らえられているの 父さまが 村の食料を盗んだ? 信じられない そうだわたし 山の中で オオカミを見たのよ それはきっとオオカミの仕業! 父ではない 彼を返して! (派手に暮らしてるな!) 誤解だわ! (この大嘘つきめ!) それはきっとオオカミの仕業! 父ではない、彼を返して! (オオカミなどいない!) 本当なの! (この大嘘つきめ!) その夜わたしは、 決意して村の家畜を荒らした 信じてくれない村人が 悪いのよ オオカミがきた! 家畜が襲われたわ! いまのうちに! まって、今ほどくわ やめなさい オオカミなど山にはいない いいえ、わたし見たの あれはそう母さまの 助け舟 オオカミだ! 本当に山からオオカミが降りてきた ぞ! 殺せ! やめろ! オオカミを撃つな! 父さま! なぜ、なぜオオカミを庇ったの? 娘よ よく聞くのだ 村の食料を盗んだのは私なのだよ 干魃は 山にも訪れた 飢えていた オオカミたちを救うためだった ヒトは忘れてしまっているのだ 山の王の存在を 日に日に弱る 我が山の息吹 もがき続けた 王に代わり もう15年 人間の生命線なのだ なんとしても守らなければならない オオカミの命 わたしはもう いかねばならぬ 娘よ 強く生きるのだ 父様! 声が聞こえる 山の王! 山が泣いている 我らの王 失せたと 土が痩せてゆく シカに木々 食い荒らされ 川は勢いまし 狂ってく 里は叫んでいる もうすべてが終わると 哀れな人間 我が友よ わかるか その真意が お前が 許し乞うならば 託させろ 王の務め この山 お前が 治めろよ 人間の暮らしにも関わるぞ 王の耳には聞こえる 山の命たちの 声が もうお前たちの前に現れることはな いだろう だが 覚えておけ オオカミが 山の恩恵を守る者だと! 嵐が去ると、 そこに残されたのは村人と娘だけで した しかし 人々の心の中にはオオカミたちの姿 がはっきりと焼きついておりました 嵐が過ぎて ようやく 気付いた この山々こそ 命の源だ オオカミたちが 守ってきたものは 未来そのものだ ようやく気付いた オオカミは山の神だ 何を今さら 知っていたはずなのに いつの間にか 人は忘れてゆく 人は流されてく 一人でも 生きて ゆけると思いゆく 神はあえて言わず 与え続けている 遠くで 見定めている いつか気付けよと この山にはオオカミなどいない 村人たちはそう嘘をつくようになり ました 日本でオオカミは絶滅したと言われ ています しかし本当は 山々のどこかから私たち人間の行い を見ているのかも知れません