あの人が歌うのをきいたことがない (KIRINJI 25th ANNIVERSARY LIVE at LINE CUBE SHIBUYA 2024.5.25)

歌詞

あの人が歌うのをきいたことがない マイクが回ってきても 隣の人に譲ってしまう 歌わない人っているのです 誰もいない部屋に帰ってきて 「ただいま」を言う 一人きりの食事でも 「いただきます」って言う そんなふうに 誰にきかせるでもなく 掃除をしながら シャワーを浴びながら 車の運転しながら 誰にきかせるでもなく あの人は歌っているのかしら あの人が歌うのをきいたことがない ない ないよね 日暮れの坂道で、あの人の歌を きいた 気がしたけれど風だった 公園のベンチで、あの人の歌を きいた 気がしたけれど虫だった 駅のホームで、あの人の歌をきいた 気がしたけれど雨だった きこえそうできこえない声 きこえそうできこえない声に あふれている どこもかしこも なに？これ！ ある朝、目覚めて気づいたよ 胸の真ん中にダイヤルがある ぐりぐり左右に回してみたけれど きこえてくるのは雑音ばっかり ちょい待て ゆっくりと回してみよう どこかの誰かの声が 雑音の中から微かにきこえてきた もしかして このダイヤルを回し続けて いつかチューニングが ピタリと合ったなら あの人の歌がきこえるかもしれない その日、僕は試みた ダイヤルに手をあてて あの人の呼吸を あの人の歩みを あの人の瞳の色を とらえようとした 静かにじんわり ダイヤルを回してみる 砂混じりの歌声が すこしクリアになった 髪の毛一本分 ダイヤルを動かしてみる その歌声はもっとクリアになった あの人が歌っている はっきりときこえる あの人の歌が ああ、そうか 君はいつだって歌っていたのか 目と目が合った あの人がこちらに歩いてくる 「あなたが歌うのをーー」 僕の声とあの人の声が重なった 「あなたが歌うのを、 今、初めてききました」