歯ぬけのホセは子供より ずっと後に生まれたんだけど いちおう親なんだな 子供の名前は ビッグ・ジョンと言って 人間じゃなくてゾウガメなんだな ゾウガメは人間より長生きするから ホセが生まれる前から サボテンを食べていたし ホセが死んだ後も サボテンを食べるんだな (ガラパゴスは南の鳥だ。 赤道直下の熱い島だ。 住んでる人はごくわずか。 ダーウィンの進化論で 注目を浴びたけど、 そんなこと、 ガラパゴスの住人には 何の関係もないのさ) ホセは漁師の息子だったから 特にぜいたくも言わず生きてきた お金儲けも苦手だったんだな ただ、滅んでしまうゾウガメの 一家を見た時 なんとか育てたいと思ったんだな 栄養が足りなくて 小さな小さな体で ゾウガメー家の 親になろうと思ったんだな (島の人はみんな漁師さ。 陽が昇れば海に出て、 陽が沈めば村に戻る。 財産なんて何もない。 青い海と青い空があるだけだ。 でも鳥の生き物は事情が違う。 こんな鳥にも文明はやってきて、 ゾウガメはもう風前の燈なのさ) 気が付けば ホセは白髪になっていた 焦げ付いた首筋もしわだらけで あと10年もすれば海に帰るんだな 歯ぬけのホセは消えてしまうのさ だけどビッグ・ジョンは そのあともそのあとも もぐもぐとサボテンを食べるんだな (ゾウガメは島の人たちの 3倍生きるのさ。 でもゾウガメはゾウガメだけじゃ 生きていけない。 今はホセのように 親代わりの人間が必要なんだ) お父さんのホセは 子供より後に生まれて 子供より先に死ぬんだ でもホセがいなかったら ビッグ・ジョンは死んでいた 歯ぬけのホセはやっぱり親なんだな だからホセが頭をなでてやると ビッグ・ジョンは静かに目を閉じる 静かに目を閉じて 色々なことを思い出すんだ 静かに目を閉じて 色々なことを思い出すんだ