ああ 東京に出て来てから もう どれだけの歳月が 流れているのだろう 方言さえ忘れてしまった 僕は人混みを歩くことも 苦手じゃなくなった 路地裏の洋食屋 ふらり入って レモンバターカレー カウンターで食べたよ なぜか涙が溢れて止まらなかった そう美味しすぎて 「おっちゃん これほんまに最高じゃねぇ」と 呟いた ああ 厨房の鍋抱えて 人懐っこい笑顔で自慢した 「生口島の 瀬戸田レモンじゃけぇね」 ああ 東京の思いがけない場所で 懐かしい故郷(ふるさと)を 思い出してしまった 僕に帰る資格はないって 勝手に自分で思い込んで 意地を張っていた 右手のスプーンその中で ふいに見つけた 生まれ育った島の大切な全てを… こんな奇跡が世の中にあるんだな ああ驚いた 「兄(にい)ちゃん この瀬戸田レモンを 知っとるんじゃ?」 ああ 嬉しそうに聞いて来る 陽に灼けた そのおっちゃんに答えたよ 「生口島生まれじゃけ」 誇らしく名乗れたんだ 店を出てからの星空が綺麗だった 心細くなるくらい こんな遠くに来てしまったよ 「明日 島に帰ろうと 思うとるんじゃけど ええかね?」 電話の母は「ええも悪いも あんたの家(うち)じゃ」と笑う ああ 厨房の鍋抱えて 人懐っこい笑顔で聞かされた 生口島の 瀬戸田レモン 遠くまで夢を 見に来たけれど…