庭と呼べない程の 狭い土地に母が 花の種を播いた 借家暮らしの2年目の春 父の仕事はうまくゆかず 祖母も寝ついた頃で 祈るような母の思いが やがて色とりどりに咲いた 学校の2階の廊下の窓から 見下ろすといつも 洗濯をする母が見えた 弟と僕が手を振れば母は 小さな妹と 笑顔で応えた アマリリスの白い花 貧しかったはずだけれど 決して不幸などではなかった あの日の あの青空 貸し本屋の帰り道 崖下の川のほとりに ぽつりと咲くバラの花を 弟がみつけた 傷だらけでたどりつけば 待っていたかのように花は 根こそぎあっけなく 母への土産となった その花は根づいて 僕らの希望のように 毎年少しずつ 紅い花を増やした 8つに増えた頃 愛する祖母を送り 僕は泣き続けて 生命を教わった バラは十幾つになり 静かに風に揺れていた どんなにつらい時も あきらめるなよと 咲き続けた そのあと父は 町のはずれに 小さいけれども 新しい家を建てた 引っ越しの日が来て 沢山の思い出を 残して僕らは トラックに乗り込んだ 庭中紅いバラの花 手を振るように風に揺れた 弟と僕と何度も振り返った あの青空