東京メトロ三景

地下鉄三景。地下鉄はいつも真っ暗。だから乗ってる人に目がいきます。スマホもない時代で、高校生で、いろいろ見た風景。そんな中から三景。 ひとつ、渋谷で１人で乗り込むと、4人の外国人モデルたちが横並びで一緒に座っていた。車内はそこそこ人がおり、4人が並んでる中で組んだ脚と揺れる靴先が場違いな雰囲気を作っていた。でもそれ以上に美しい彼女らの顎のラインと目の色、睫毛に視線は釘付けになった。服は何故か揃ったトーンのバリエーションでお互いに熱心に話していた。僕は三茶で降りたので、4人がどこまで乗ったのか分からないけど、降りて振り替えると、地下鉄のドアが閉まる向こうに彼女たちの金髪が明かりのようにトンネルの闇に吸い込まれていくのが見えたような気がした(ナット・キング・コール)。 ふたつ、渋谷の地下から入れる書店で用を済まし、地下鉄を目指し歩いていると段ボールを広い廊下の端に敷き詰めているホームレスを見かけた。皆、寝ていて、これから来る冷えた夜に備えて暖をとっているように見えた。その内の１人が地下鉄駅構内の天井をじっと見上げていた、その口の端には皺が寄り、その目には微かな涙が浮かんでいた。その涙の滲む目の奥に何が見えていたのか分からないまますれ違って離れてゆく。ただ、ただ、すれ違ってゆくのが、この街なのだと思った(サラ・ボーン)。 みっつ、新宿の郵便局でアルバイトを終えて、同じアルバイト仲間2人と地下鉄に乗った。初めてのアルバイトで疲れて、うつ向いて乗っていると前に向かい合わせで立っていた刑事コロンボのような髪をした大人が、丸めた雑誌で地下鉄の揺れに乗って僕の股間を突いてくる。本人は上を向いてこちらなんかには一切視線を合わせてこない。なんか、ドリルみたいにグリグリもしてきたので、疲れた頭で思った。これでここで何か新しい出会いが生まれるのか。ここでこの人に地下鉄の揺れを利用して、逆に抱きつくと何か始まるのか。とか思いながら2駅程で乗り換えのために地下鉄を降りた。とにかく痴漢が多くて、感覚は麻痺していたけど、雑誌を丸めて突かれるのは初めてで、仲間と別れて部屋に帰るまで可笑しくてしょうがなかった(ジョージ・シェアリング)。