むー の《Cine Jazz》シリーズ第10弾は、イギリスの《アクション映画のマエストロ》ロイ・バッドの特集です。
ロイ・バッドは1947年3月14日生まれのイギリス人。
ジャズ・ピアニストとしての演奏活動の傍ら、1967年から、TVドラマの音楽も担当するようになり、
1970年、イギリスの音楽コンポーザーを探していたラルフ・ネルソン監督によって『ソルジャー・ブルー』(70年)に起用されます。
その後
『マーベリックの黄金』(71年)
『シンジケート』(73年)
『マルセイユ特急』(74年)
『太陽にかける橋/ペーパー・タイガー』(75年)
『ワイルド・ギース(78年)
といった多数の作品を担当。
ジャズとシンフォニーを組み合わせたバッドのスコアは抜群にカッコよく、
特に『狙撃者』(71年)は、シタールやタブラを使っていて、独特なタッチのメインタイトルは、今聴いてもそのセンスの良さに脱帽します。
残念ながら1993年8月7日に46歳の若さで病死しており、
死の直前まで、1925年製作のサイレント映画『オペラ座の怪人』の1993年版スコアを準備中だったといいます。
(ちなみに、『オペラ座の怪人』1993年版は、ロイ・バッド死後『フランス軍中尉の女』(81年)、『チャンピオンズ』(84年)のカール・デイヴィスが担当しました。)
①『狙撃者』原題『Get Carter』(71年)……
監督:マイク・ホッジス
出演:マイケル・ケイン | イアン・ヘンドリー | ブリット・エクランド
ロンドンの大物ギャング、フレッチャー(テレンス・リグビー)の配下のジャック・カーター(マイケル・ケイン)は、
飲酒運転で交通事故死した兄フランクの葬式に出席するため、故郷のニューカッスルへ戻ってきた。
カーターは、フレッチャーの愛人アンナ(ブリット・エクランド)と、南米へ高飛びするつもりだったが、
兄の死に疑問を抱き、昔の仲間たちに聞き込みを始める。
そこでカーターは、町の組織のボス、キニアー(ジョン・オズボーン)と自らのボス、フレッチャーが裏で通じていることを知る。
カーターは兄の死の真相を知り、兄の謀殺に関わった者たちに、徹底的な復讐を始める……
原作は、テッド・ルイスの"Jack's Return Home"(1968) 邦題「殺しのフーガ」。
『ゲット・カーター』(扶桑社ミステリー)でも出てます。
ジャズピアニスト、ロイ・バッドは当時24歳だったが既に数本の映画音楽を手がけていて、
その作品群は、オーケストラレーション・スコアでした。
本作ではじめて少数編成でレコーディングをおこなったとの事です。
監督のマイク・ホッジスは、こう語っています。
「ロイは映画のオープニングに、最高にシンプルで美しいハープシコードのタイトル音楽を作ってくれた。
彼自身は気づかなくとも、それこそ私の求めていた音だった。
だから映画の重要なシーンには、必ずその旋律を入れたんだ」と。
今でも、拡張盤、完全盤等とリリースされる名盤です。
②『ファイナル・オプション』原題『Who Dares Wins』(82年)……
監督:イアン・シャープ
出演:ルイス・コリンズ | ジュディ・デイヴィス | リチャード・ウィドマーク
1980年にロンドンで実際に起こった駐英イラン大使館占拠事件を元に制作された
イギリス陸軍特殊部隊SAS (Special Air Service) の活躍を描いたアクション映画。
イギリス国内で、過激派グループがテロ事件を起こそうとしていることが判明した。
SASのハドレー中佐(トニー・ドイル)は、ピーター・スケルン大尉(ルイス・コリンズ)をそのグループに潜入させ未然に防ごうとするが、
スケルンの家族を人質にとられた上、アメリカ大使館が占拠されてしまう……
サウンドトラック盤は、《 KRITZERLAND 》レーベルから『BILLION DOLLAR BRAIN / FINAL OPTION』
のカップリングで発売。
(『BILLION DOLLAR BRAIN 10億ドルの頭脳』の音楽は、リチャード・ロドニー・ベネット)
③『シンジケート』原題『The Stone Killer』(73年)……
監督:マイケル・ウィナー
出演:チャールズ・ブロンソン | マーティン・バルサム | ノーマン・フェル
ニューヨーク警察の主任刑事ルウ・トリー(チャールズ・ブロンソン)は、《犯人には容赦ない》という流儀が災いしてロサンゼルス市警に転勤させられる。
それから2年、トリーは相棒のマシューズ刑事(ラルフ・ウェイト)と組んで麻薬売買ルートを探っていた。
しかし、その過程でトリーが逮捕した、かつてはマフィアの殺し屋だったアーミテジ、黒人のリッパーがあい次いで殺された。
2つの殺しの手口は、発生場所こそ違えど類似性があった。
殺人方法が古典的マフィアのそれなのだ。
彼はその背後関係に注目し、事情を知るジャンパー(ジャック・コルヴィン)を逮捕。
その取調べに当たったトリーは、シラを切るジャンパーが、アーミテジが死ぬ前に口にした”ウェクストン”なる名を聞いて顔色を変えるのを見逃さなかった。
その頃、ニューヨークにあるカトリック墓地では、4人の男たちが1931年4月10日に殺されたシシリーのマフィアたちの墓の前に立っていた…。
原作は、ジョン・ガードナーの『完全なる死』
ロイ・バッドのスコア、70年代やね~
④『ドラブル』原題『THE BLACK WINDMILL』(74年)……
監督:ドン・シーゲル
出演:マイケル・ケイン | ジョセフ・オコナー | ジョン・ヴァーノン
ロンドン郊外の野原で遊んでいた二人の少年が、外国人スパイ、マッキー(ジョン・ヴァーノン)とその愛人シイル(デルフィーヌ・セイリグ)に誘拐された。
誘拐された少年の父親ジョン・タラント(マイケル・ケイン)は英国諜報機関の破壊工作員として、国際的な武器密輸の調査に当たっていた。
タラントは妻のアレックス(ジャメット・サズマン)からの電話で、息子のデイビッドが誘拐された事を聞く。
犯人は、「俺は《ドラブル》。我々の要求は50万ポンド相当のダイヤだ」
と目的を明かす。
⑤『爆走!』
原題『Fear Is the Key』(72年)……
監督:マイケル・タックナー
出演:バリー・ニューマン | スージー・ケンドール | ジョン・ヴァーノン
『女王陛下のユリシーズ号』『ナヴァロンの要塞』などのスコットランドの冒険小説家 アリステア・マクリーンの『恐怖の関門 Fear Is the Key 』(1961年)の映画化。
主演は『バニシング・ポイント』(71年)で、スターダムに躍り出たバリー・ニューマン。
輸送機ダコタ号が交信を絶ってから3年後、
微罪で逮捕された潜水艇作業員ジョン・タルボット(バリー・ニューマン)は、裁判所で過去の犯罪を暴かれるが、
奪った銃で警官に発砲、傍聴席にいた石油王の娘セーラ・ルースベン(スージー・ケンドール)を人質にフォード・トリノで逃走する。
パトカーとの激しいチェイスの末逃げ切るが、金目当てのジャブロンスキー(ドルフ・スウィート)に捕まり、
セーラの父親の家に連れて行かれる。
そこにはヴァイランド(ジョン・ヴァーノン)という男と用心棒たちが待っていた。
タルボットに潜水艇の運転を強要する彼らの目的とは?
第55回アカデミー賞の『ガンジー』で主演男優賞をとったベン・キングスレイも出てます。
ロイ・バッドのスコア、かっこいい~!
⑥『MR.ダイヤモンド』原題『DIAMONDS』(75年)……
監督:メナハム・ゴーラン
出演:ロバート・ショウ | リチャード・ラウンドトゥリー | バーバラ・ハーシー
金庫破りのアーチー(リチャード・ラウンドツリー)と
その恋人、サリー(バーバラ・シーガル)
宝石商のチャールズ(ロバート・ショウ)
その3人が、イスラエルのテルアビブにある世界のダイヤ取引所襲撃を計画。
国際警察の尾行を承知で、無数の警備網や赤外線装置を突破、ついにダイヤを手に入れるが……。
監督は、キャノン・フィルムズの総帥 メナハム・ゴーラン。
⑦『殺しのカルテ』
原題『THE CAREY TREATMENT』(72年)……
監督:ブレイク・エドワーズ
出演:ジェームズ・コバーン | ジェニファー・オニール | パット・ヒングル
1969年エドガー賞最優秀長編賞を受賞した、『ジュラシックパーク』の原作者マイケル・クライトンの4作目の医療サスペンス『緊急の場合は』(原題 Case of Need、ジェフリー・ハドソン名義)の映画化。
日本では、『殺しのカルテ』として公開予定で
ポスターも作られたが、大作主義のMGMはアメリカン・ニューシネマの流れに乗れず、
配給部門をリストラせざるを得なくなり、ユナイテッド(UA)系列のUIP(旧CIC)に配給を委ねます。
UIPはユナイテッド映画を優先して、MGM映画の配給は滞るようになり、ついにこの映画の日本公開はお蔵入りとなりました。
外科医のピーター・ケリー(ジェームズ・コバーン)は、大学時代の友人で産科医のタオ(ジェームズ・ホン)のいる病院に赴任してきた。
ところがタオが病院理事長の娘カレンに違法な中絶手術を施して失敗、出血多量で死なせたとして逮捕されてしまう。
無実を証明しようとケリーは、捜査に乗り出したところ、
検死の立会いで、カレンが妊娠していなかったことを知る……
⑧『マルセイユ特急』
原題『THE MARSEILLE CONTRACT』(74年)……
監督:ロバート・パリッシュ
出演:アンソニー・クイン | マイケル・ケイン | ジェームズ・メイソン
アメリカ大使館の麻薬取締官が殺される事案が、複数発生する。
相次ぐ部下の死に、スチーブ・ベンチュラ(アンソニー・クイン)は、
黒幕に、マルセイユの麻薬組織のボスで、フランス財界の大物ブリザール(ジェームズ・メイソン)の仕業とにらむ。
ブリザールは一向に尻尾を出さないばかりか、逆に政府に圧力をかけ、ベンチュラの動きを封じにかかった。
アメリカ大使館は、ベンチュラの捜査に非協力的になり
ついにベンチュラは、たとえどんな手を使おうと、元凶ブリザールを抹殺する決意を固めていた。
ベンチュラに協力するパリ警察のブリアク警部(モーリス・ロネ)は、
こうなったら「殺し屋をやとって消してしまっては」ともちかけた。
パリ警察でもどうしても証拠を掴めず手を焼いている
天才的な殺しのプロがいるという。
ベンチュラは早速その男に個人的に会うことにした。
意外にも約束の場所に現われた殺し屋はベンチュラの古い友人のドレー(マイケル・ケイン)だった。
ドレーは、十万ドルで仕事を引き受けることに決まり、早速マルセイユに飛んだ……
ロイ・バッドのサントラは、公開当時には発売されず、1999年になって英CastleレーベルからCDが発売されました。
蔵出し音源だったので、曲名はトラック番号がそのまま使われています。
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