「今度は、大して面白い仕事でも ないんだがね」
ヴァンス・リチモンドは、握手がすむと 早速切りだした。
「つまり、君にある男を探し出してもらいたい という訳なんだ。それも、犯罪者でもなんでもない 普通の人間なんだが」
その声には、言い訳がましい調子があった。
この痩せた、顔色のさえない弁護士が、僕にくれて寄こした仕事の内、
ことに最後の二つばかりは 撃ち合いやらなんやら、
とにかく相当に派手な騒ぎにまで発展した。
だから、そこまで行かないような事件だと、僕が眠気を催すとでも思っているらしい。
全く その通りだった時代も かつてはあった。
僕が まだ二十かそこらの青二才で、
コンチネンタル探偵社に入れてもらったばかりの自分の事だ。
ところがそれ以来、いつしか流れ過ぎた15年という歳月が、
そうした荒っぽい仕事に対する僕の食欲を
スッカリ減退させてしまっていた。
ダシェル・ハメット
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