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説明文

三畳一間の長屋暮らし。内職の傘張りにもようやく馴れた平十郎 出来上がりの傘を手に取りぱっと頭上で開いてみる。うむ。まんざらでもない。近頃近所の居酒屋で覚えた長唄を無意識に口ずさみながら平十郎は傘をくるくる回してみたり上下にゆさゆさ揺すってみたりしている。要するに平十郎暇なのだ。 ぱたんと傘を畳んで無造作に部屋の隅に追いやると平十郎は脇に置いた徳利に手を伸ばしそのまま口をつけて徳利を傾けた。残り少なくなった酒を惜しむように口の中でしばらく転がした後ごくりと呑み込むと平十郎はそのまま大の字に寝転がった。 ‘あら平さんまた昼間っから酒呑んでるのかい?’ 天井の黒いしみがそのうち蜘蛛のように動き出すんじゃないかとじっと睨んでいた目を開け放しの戸口の方に向けると赤ん坊を背に負った隣のお福だった。‘ほら平さんつまみに沢庵でもかじんなよ’山盛りの黄色い沢庵の皿を框に置くとお福は背中の赤ん坊をあやしながら大きな尻をこちらに向けてどっかりそこに座り込んだ。 ‘まったく平さんのおかげで長屋中酒臭くて叶わないよ。こっちまで酔っ払っちまいそうだ’ ‘お福おめえこそ年柄年中赤ん坊ばかりぽんぽん産みやがって犬じゃあるめえし。しょんべん臭くてかなわん’ ‘あたしが赤ん坊産むのはからだが丈夫な証拠だよ。なんなら今度は平さんの赤ん坊産んでやろうか?あはははは’ ‘御免こうむりのすけよ’ するとそこに血相を変えた組頭の長兵衛が息を切らしてやってきた。‘平十郎の旦那大変だ。ちょいとご足労願えまいか。今そこの呉服の桔梗やの店先でやくざの若え奴らが厭がらせに刃物振り回して暴れまわってるんでございやすよ’ ‘そんなことなら十手持ちに頼めばよかろう’
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