1960年代の終わり、デヴィッド・マレルは ペンシルベニア州立大学で文学を教えていました。
時はベトナム戦争真っ盛り、校内では盛んに反戦運動が行われていました。
ペンシルベニア州立大学では、除隊した兵士を学生として受け入れる制度があり、デヴィッド・マレルのクラスにも何人かいました。
生徒達は彼らに、過酷な戦場の体験を聞きたがってましたが、
彼らは 不眠に悩まされ、除隊後の日常生活に、強いストレスを感じていました。
そんな彼らを横目に、アメリカは反戦運動によるデモ隊と、警官・州兵が、火炎瓶、催涙ガスを使用する内戦状態になっていました。
マレルは、そんな世の中を見て、
帰還兵がたった一人で暴動を起こしたら……
そいつが凄い奴で、誰もかなわない様な奴だったら……
そんな思いにとらわれます……
1966年 すでに元海兵隊員のチャールズ・ホイットマンが、テキサス大学の塔からライフルで通行人を片っ端から狙撃した
《テキサスタワー乱射事件》が起きていました。
1966年8月1日正午、元海兵隊員で、テキサス大学の大学院生であるチャールズ・ホイットマンが
テキサス大学オースティン校本館時計塔にM1カービン銃、レミントンM700狙撃ライフル等の銃器、立て籠もりのための食料等を持ち込み、
受付嬢や見学者を殺害した後に同時計塔展望台に立て籠もり、眼下の人を次々に撃ち始めました。
事件の一報を受けたオースティン警察が出動するも、
90mもの高さを利用した射撃に歯が立たず、
警察が地下水道からタワーに侵入してチャールズを射殺するまでの96分の間に
警察官や一般市民など15名の犠牲者
(犯人のチャールズを含まず。当時腎臓を撃たれて重い障害が残り、後に死亡した1名と、被害者の1人の胎内にいた胎児を含めて16名ないし17名とする場合もある)
31名の負傷者を出す等、最悪の学校銃乱射事件となりました。
そんな事件にもインスパイアされたマレルは、一人のベトナム帰還兵が、アメリカの小都市を滅ぼしてしまう小説
『一人だけの軍隊』原題『First Blood』を完成させました。
主人公 ジョン・ランボーの名前の由来は、
妻が買ってきた《ランボー・アップル》という林檎の銘柄に
スペルの違うフランスの詩人 アルチュール・ランボー(Arthur Rimbaud)の人生
ー 傭兵や砂漠の商人をしながらアフリカを放浪し、癌で亡くなった天才詩人に、祖国を放浪する帰還兵を重ね合わせたからでした。
物語は
アメリカ・ワシントン州の小さな町に、ベトナム戦争時代の戦友を訪ねに来た元グリーン・ベレーの隊員ジョン・ランボー(シルベスター・スタローン)
しかし戦友は、枯葉剤の影響による癌ですでに亡くなっていました……
ショックを受け歩くランボーに、地元保安官のウィル・ティーズル(ブライアン・デネヒー)が声をかけます。
ティーズルはランボーのみずぼらしい身なりや顔つきから、彼はこの町でトラブルを起こしそうだと勝手に判断し、ランボーをパトカーに乗せて町から追い出そうとしたのです。
逆らうランボーに、ティーズルは浮浪罪とサバイバルナイフ所持の容疑で逮捕しました。
保安官事務所での拷問じみた嫌がらせに、ベトナム戦争をフラッシュバックさせたランボーは、その場の者たちを叩きのめし、ナイフを奪い返して事務所から逃走しました。
面子を潰されたティーズルは、直ちに猟犬やヘリコプターの援軍を要請して山狩りを開始しました。
そこに現れたランボーの上官だったサミュエル・トラウトマン大佐(リチャード・クレンナ)により
ランボーは特殊部隊“グリーンベレー”出身で栄誉勲章を持つ戦争の英雄であることを知ります……
この原作本『 First Blood 』は、1972年に発売されるとコロンビア映画が映画化権を獲得し、『ブリット』のスティーブ・マックイーンで製作をスタートしました。
マックイーン自身も乗り気でしたが、朝鮮戦争に従軍したマックイーンでは年齢が合わす
また、ベトナム戦争ものは、まだ記憶が新しくアメリカ人には娯楽として受け入れられない……
との事から コロンビア映画からワーナーブラザーズに映画化権が移り
ランボー役としてクリント・イーストウッドとジェームズ・ガーナーの二人に交渉をしたところ、
双方からオファーを断られてしまい、
特にガーナーの方は
「アメリカの警官を殺すような役はしたくない」
とまで言われる始末でした。
その後、当時新進のアル・パチーノにもオファーを出すも、これもまたダメ……
しばらくして、『卒業』(67年)の監督のマイク・ニコルズが企画に興味を示し、
主演にダスティン・ホフマンを推すも、
「暴力的すぎる」
と断られてしまった事から企画は頓挫し、
映画化権は当時新鋭のプロデューサーだった
レバノン人のマリオ・カサール、
ハンガリー人のアンドリュー・G・ヴァイナ
が設立したカロルコ・ピクチャーズに売却されました。
彼らは、ワーナー製作時に監督に任命され、製作ペンディングで失意にいた
監督のテッド・コチェフ(『おかしな泥棒ディック&ジェーン』(77年)『料理長殿、ご用心』(78年))に声をかけます。
また、『勝利への脱出』(81年)を製作時に共に仕事した、シルベスター・スタローンにも声をかけます。
『ロッキー』(76年)以外ヒット作の無かったシルベスター・スタローンは、どうにか当たる映画を欲していました。
スタローンは、自ら脚色に参加するだけじゃなく、カースタント以外を全て自分でこなし
数10メートルの崖から落下するシーンでは、肋骨を数本折るほどランボー役に没頭しました。
ランボーを鍛え上げたサミュエル・トラウトマン大佐役は、当初『スパルタカス』(60年)の…というより、マイケル・ダグラスの父と言った方が通りがいいカーク・ダグラスがキャスティングされました。
カーク・ダグラスは、カナダのロケ地にやって来ましたが、現場でのストーリー変更に納得せず、撮影前に飛行機で帰ってしまい、
急遽呼ばれたのが『暗くなるまで待って』(67年)、『リスボン特急』(72年)の中堅俳優 リチャード・クレンナでした。
カーク・ダグラスが揉めた理由は、
カーク・ダグラスが気に入っていた、原作のラストのトラウトマン大佐によるランボー射殺が
ランボーの自決等の案によって変更する可能性があったからです。
原作は、保安官のティーズルの山狩りから逃げ切ったランボーは、反撃に転じます。
街を壊滅させ、保安官事務所を襲撃しティーズルを殺します。
映画では、とどめを刺しません。
大量の警官と狙撃手に囲まれる中、トラウトマン大佐が現れます。
「もう、逃げられないぞ。この作戦は、終わったんだ。」
ランボーの感情に応え《作戦》と呼びかけます。
ランボーは、
「終わってない!何も!」
と答えます。
「勝手に終わらせるな!あれは、俺の戦争じゃなかった。頼んでないのに、俺を巻き込んだんだ!ベトナムで俺たちは勝つために命を捧げた。勝つ気のない政府の為に!街に戻ったら《赤ん坊殺し》と罵られ、唾をかけられた。アイツら何様だ!戦場なんか知らないくせに!」
ランボーは、撃てないトラウトマン大佐の銃を掴み
「アンタは俺を造った。今度は殺す時だ」
と言い、自らの頭を吹き飛ばしてしまう……
このエンディングにシルベスター・スタローンは不満でした。
実際、ラスベガスでのテスト試写では、途中まで熱狂的に観ていた観客が、ラストで静まり返ってしまったのです。
スタローンの提言通り、ラストの撮り直しが行われます。
それが、現在の形のラストシーンです。
観てない方は、ご覧になって下さい。
《優しい》ラストシーンは、ベトナム戦争従軍者を《殺人帰還兵》扱いしていたアメリカ映画からの謝罪を表していました。
『ランボー』は製作費 $1500万$で、アメリカ国内で
$47,212,904
世界興収 $125,212,904 をあげ、大ヒットになりました。
日本では、1983年正月映画として公開されました。
大本命は、松竹・東急系チェーンの当時歴代ナンバーワンのヒット映画、スティーヴン・スピルバーグの『 E.T. 』!
東宝洋画系は、東宝東和配給の『ランボー』で迎え打ちます!
東宝東和は、《アクション大作》と《シルベスター・スタローン最新作》の2本柱を中心としたプロモーションを展開します。
オリジナルタイトルの『 First Blood 』をキャラクターを強く印象づける『ランボー』と、力強い邦題に変えます。
タイトルロゴは、カタカナ4文字を岩壁の様に立体化させます。
そして、1982年 11日3日から公開するリー・リンチェイ(ジェット・リー)主演の『少林寺』の冒頭に特製予告編をつけ、認知させ万全の興行体制を引きます。
結果『E.T.』のメガヒット(94億)には及びませんでしたが、
単独で12億1300万円、アガサ・クリスティ原作の『地中海殺人事件』とのローカルセットで20億円を稼ぎ、大健闘しました。
なんといっても、日本だけの題名『ランボー』が、アメリカでも評価され
次作『ランボー / 怒りの脱出』(85年)のオリジナルタイトルに『 Rambo: First Blood Part II 』と『ランボー』が採用されました。
東宝東和には、シルベスター・スタローンから『ランボー』の命名に感謝する言葉を書き添えられたポートレートが届きました。
良い話ですね。
命を救われたランボーは、『ランボー / 怒りの脱出』以降、苦しみと哀しみに包まれながら、母国アメリカの為に尽くします。
『ランボー / 怒りの脱出』では、ベトナム戦時行方不明者(MIA)を奪還する為に、ベトナムに戻ります。
1988年の第3作『ランボー3 / 怒りのアフガン』では、ソ連軍に捕らえられたサミュエル・トラウトマン大佐を救出に来たジョン・ランボーと
アフガン・ゲリラ(ムジャーヒディーン)が協力して、ソ連部隊と戦います。
2008年の20年振りの第4作『ランボー / 最後の戦傷』は、
人権弾圧が続くミャンマーの軍事政権に拉致された、キリスト教系NGOグループを救出しに行きます。
そして最新作2019年制作の『ランボー ラスト・ブラッド』は、
アリゾナ州ボウイの亡き父の牧場で、
旧友マリア・ベルトラン(アドリアナ・バラーサ)とその孫娘ガブリエル(イヴェット・モンリール)と共に穏やかに暮らしていたジョン・ランボーに、
ガブリエルがメキシカン・カルテルに誘拐されるという事態が起きます。
……穏やかな日々に別れを告げ、再び《修羅》の道を行く事になるランボー……
1972年 の原作の悲劇から約半世紀、映画に救命されたジョン・ランボーですが、
その後の映画での《哀しみ》に包まれた生涯は、原作通り生涯を終えていた方が、良かったのかもと思えるくらい《辛い》人生に思われます……
一生涯続くランボーの《冥府魔道》……
是非シリーズを通して御覧下さい。
全5部作、ランボーの哀しみの軌跡に涙します……
《選曲》
①④⑦『ランボー ラスト・ブラッド』
②『ランボー』
③⑧『ランボー / 怒りの脱出』
⑤『ランボー 最後の戦場』
⑥『ランボー / 怒りのアフガン』
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