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①『チャイナタウン』(74年)…… フィリップ・ランブロ(没)⇒ ジェリー・ゴールドスミス(採用) ロマン・ポランスキー監督によるアカデミー賞、ゴールデングローブ賞等 いくつもの賞に輝くミステリーの名作。 ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ主演。  ポランスキーが長年組んでいた作曲家クリストフ・コメダは1969年に自動車事故で亡くなった為、『ローズマリーの赤ちゃん』の撮影時に会ったフィリップ・ランブロを起用することにしました。 ランブロはサックスを使ったメインテーマと、主役ふたりの愛のテーマをメインにした20数分のスコアを書き、 監督ポランスキー、製作者ロバート・エヴァンス共にスコアに満足し ボーナスとして1000ドルを追加でもらっていました。 しかし、監督の友人である作曲家ブロニスラウ・ケイパー (1902年ポーランド生まれで、『戦艦バウンティ』などを担当した大御所。1983年没.。) を試写に招いたところ、映画については好意的だったが、音楽は批判的で 特に監督も納得していたラストシークエンスを批判しました。 公開まで2週間しかなかったのですが、エヴァンスは差し替えを決めます。 ポランスキーが次の映画 (『テナント/恐怖を借りた男』76年 かな…) のためにヨーロッパに戻る前にジェリー・ゴールドスミスが呼ばれ、エヴァンスと共にプランを練ります。 ロバート・エヴァンスは当時バニー・ベリガン(30年代のスウィングジャズのトランペッター)に夢中になっており、 その方向性を提案しましたが、ゴールドスミスは 「30年代の映画に30年代の音楽をつけたのではくどすぎる。別の方法を試させてくれ」 と提案し、了承されました。 結果的に30分足らずのスコアはオスカーノミネート (受賞は『ゴッドファーザー part Ⅱ 』) され、エヴァンスは「音楽が映画を救った」と絶賛しました。 しかし、公開前の宣伝でパラマウントはランブロの音楽を使いたいと考え、それを知ったランブロは自分のスコアの所有権を買い戻し、TVCM、ラジオCM、劇場予告編の音楽使用料を受け取りました。 『チャイナタウン』の予告編は、ほぼフィリップ・ランブロの音楽が使われ、良い感じを出しています。 ぜひ、YouTube でご覧頂きたい。 スタジオ側から この録音をリリースする場合、『チャイナタウン』といういかなる説明もつけないという契約条項がつけられ、アルバム化は困難になりますが、 2012年11月、PERSEVERANCEレーベルが当時のアナログ音源から『 Los Angeles, 1937 』というタイトルで アルバムをリリースし、めでたくCD発売と 相成りました✌️ ②『ヤング・ガン』(98年)……  ジェイムズ・ホーナー(没)⇒ アンソニー・マリネリ(採用) エミリオ・エステヴェス キーファー・サザーランド ルー・ダイアモンド・フィリップス チャーリー・シーン がビリー・ザ・キッドと仲間たちを演じた青春西部劇。続編も製作されました。 クリストファー・ケイン監督とホーナーは『エメラルド・レジェンド/少年とイルカの愛の伝説』(86年)以来、二度目。 ホーナーは、イギリスに拠点を置く フォルクローレ音楽のバンド《インカンテーション》と組み エスニック楽器を使ったアイリッシュテイストのスコアを書きましたが、 スタジオは伝統的な西部劇音楽でないことを不満に感じ、リジェクトされました。 代わりにアンソニー・マリネリを起用。 こちらもノイズやシンセを多用した西部劇っぽくないスコアでしたが、若手人気男優たちの支持層には受けると判断され、採用されました。 ホーナーのスコアの一部分は 《インカンテーション》がこれまで参加した映画で使用された曲を集めた、 『 Camera-Reflections on Film Music 』に収録されています。 ③『惨劇のローズウッド/自由への脱出』(96年)…… ウィントン・マルサリス(没)⇒ ジョン・ウィリアムズ(採用) 日本では劇場未公開。 1923年にアメリカで実際に起こった人種差別が原因による未曾有の悲劇を映画化したドラマ。 黒人が暮らすフロリダの小さな町ローズウッドを舞台に、 一人の白人女性の偽りの証言が、近隣の白人住人による黒人住人への集団リンチ、集団虐殺へと発展していく…… そんな中で黒人住人たちの避難を手助けする白人男性の姿を描いてます。 監督は「ボーイズ’ン・ザ・フッド」のジョン・シングルトン。 主演は《アンジョリのパパ》ジョン・ヴォイトとヴィング・レームズ。 ちなみに実際の事件でも最終的に町の全住人が、殺されるか家を焼かれて逃げ出すことを余儀なくされ、わずか数日間でローズウッドは消滅してしまいます。 しかし この事実が初めて明るみに出るのは、事件発生から60年を経た 1982年にローカル紙の記者が生存者に取材し記事にした為。  シングルトンは同じく黒人のトランペッター、ウィントン・マルサリスに依頼。 マルサリスは時代背景に相応しいオールドスタイルのジャズにブルーズとフォークミュージックを加えたスコアを書き、自身でも演奏しました。 しかし、シングルトンはそのスコアに満足出来なく、ジョン・ウィリアムズ《先生》に依頼。 ジョン・ウィリアムズのスコアはゴスペル、ギター、フィドル、ハーモニカ、口琴などを使った独特なスコアになり、その後、『アミスタッド』につながっていく。  シングルトンはマルサリスのスコアの権利を自由にし (通常 没スコアの権利はスタジオが保有) マルサリスはそのスコアを元にしたアルバム『 REELTIME 』をリリースしました。 ④『ラストマン・スタンディング』(96年)…… エルマー・バーンスティーン(没)⇒ ライ・クーダー(採用)  ウォルター・ヒル監督、ブルース・ウィリス主演で、黒澤明の『用心棒』を1930年代のアメリカを舞台にしてギャング映画として仕上げました。 黒澤明の『用心棒』は、アメリカのハードボイルド・ミステリーのダシール・ハメット『血の収穫』を元にしているので、そっちを映画化すればいいと思うのだが… バーンスティーンは 久しぶりに西部劇スコアが書けると、最初と最後に主人公の《テーマ》を配置し、パーカッションを効かしたワイルドなアクションスコアを書き上げました。 スタジオ側は気に入ったが、ウォルター・ヒル監督はオールドファッションすぎると感じ、もっと違うものを求め、ライ・クーダーに変更しました。 クーダーは、ギターやパーカッション、シンセによるブルーズのフレーヴァーを加えたスコアに仕上げています。 バーンスティーンのスコアは《VARESE SARABANDE》からリリースされています。 ⑤『トールマン』(12年)…… クリストファー・ヤング(没)⇒ トッド・ブライアントン & ジョエル・ドゥーク(採用) 「マーターズ」でホラー・ファンの注目を集めたフランスの新鋭パスカル・ロジェ監督が 「テキサス・チェーンソー」「トータル・リコール」のジェシカ・ビールを主演に迎えて贈るサスペンス・ミステリー。 共演に 「ローズ・イン・タイドランド」のジョデル・フェルランド 「ウォッチメン」のスティーヴン・マクハティ。 ワシントン州の炭鉱町コールド・ロック。 かつては賑わいを見せたこの町も、鉱山の閉鎖によって今やすっかり寂れてしまっていた。 そこへきて今度は、幼い子どもばかりが忽然と姿を消す不可解な事件が立て続けに発生する。 目撃者の証言などから、フードを被った背の高い男“トールマン”の仕業との噂が広まる。 そんな中、町の小さな診療所で働く看護師ジュリアの最愛の息子が何者かに連れ去られてしまう。 必死に行方を追い、町外れのダイナーに辿り着いたジュリア。 しかしそこで彼女が目にしたものは、あまりにも不可解な住民の態度だった…… 音楽は『サベイランス』のトッド・ブライアントンとジョエル・ドゥーク。 サントラに、クリストファー・ヤングのスコアが Suite from and Inspired by “The Tall Man” (Christopher Young) として入ってますが、これは《リジェクト》されたもの。 でも、共同担当の位置づけで、没扱いはされてませんね。 ⑥『何かが道をやってくる』(83年)…… ジョルジュ・ドルリュー(没)⇒ ジェイムズ・ホーナー(採用) レイ・ブラッドベリの小説をディズニーが映画化。 アメリカの田舎町に突如現れたカーニバル団。 町に住む二人の少年が偶然にもカーニバル団の正体を見てしまったことから彼らは追われる羽目に…。 監督:ジャック・クレイトン  出演者: ジェイソン・ロバーズ(チャールズ・ハロウェイ) ジョナサン・プライス(ミスター・ダーク) ヴィダル・ピーターソン(ウィル・ハロウェイ) ショーン・カーソン(ジム・ナイトシェイド) ダイアン・ラッド(ナイトシェイド夫人)  ジャック・クレイトン監督は長年のコンビ、ジョルジュ・ドルリューに依頼し、ダークで非常に特徴的なスコアを書きました。 監督は気に入りましたが、ディズニー側はそうではなく、テスト試写の結果が悪かった事も重なり 追加撮影と再編集が行われ、音楽もボツに…… ディズニーはジェリー・ゴールドスミスに打診したが他の仕事があって断られ、ジェイムズ・ホーナーに。 ディズニーの要求どおり、ファミリー向けの音ではありながらダークな雰囲気もあり、ドルリューよりこっちかな…と わちきも思います。 《採用》のホーナーのスコアも長らくリリースされなかったがINTRADAから限定盤が発売。 ドルリューのスコアは同じくリジェクトになった『心の旅』とのカップリングで フランスユニバーサルからリリースされ、後にドルリューのスコア完全版もリリースされました。 めでたしめでたし。 ⑦『2001年宇宙の旅』(68年)…… アレックス・ノース(没)⇒ 既存のクラシック・ミュージック 当初、音楽を担当していたのは『スパルタカス』(60年)で、スタンリー・キューブリック監督と組んだ事のあるアレックス・ノース。 ノースは、ニューヨークからロンドンに飛んでキューブリックと打合せをして作曲に臨みました。 キューブリックは仮の音楽として、クラシック音楽を付けていて 「こんなイメージで行きたい」というビジョンを提示していました。 ノースは仕事を引き受けたはいいが、レコーディングまでの日があまりに短く、ぶっ倒れそうになりながら筆を進めて、当日は救急車でレコーディング・ルームに運ばれる騒ぎになったとの事。 最初に40分ほどの音楽を仕上げ、オープニングテーマはキューブリックにも気に入ってもらえた様でしたが、その後 仕事の話をしなくなります。 しばらくすると、キューブリックから「もうこれで十分だ」という連絡が入ります。 アレックス・ノースが状況を知ったのはニューヨークで試写会が開かれてから… なんと、ノースが書いた音楽はボツになり 代わりに当初キューブリックが付けていた「仮の音楽」がそのまま使われていたのです。😥 幻のノースのスコアは後年、レコーディングされて《日の目》を見ることになりました。 それが『 Alex North's 2001 』 しかし『2001年宇宙の旅』と言ったら 「ツァラトゥストラはかく語りき」や「美しく青きドナウ」 ……映画からナレーションや、説明を省いたように この《体感》する映画に、いわゆる《映画音楽》は不要なのは、この映画を御覧になった事のある方には御理解いただける事でしょう。 ⑧『引き裂かれたカーテン』(66年)…… バーナード・ハーマン(没)⇒ ジョン・アディソン(採用) アルフレッド・ヒッチコック監督の50本記念作品。 (全 53 作品) ブライアン・ムーアが自分の原作を脚色したスパイ推理ドラマ。 主演は 「動く標的」のポール・ニューマン 「サウンド・オブ・ミュージック」のジュリー・アンドリュース 物理学者マイケル(ポール・ニューマン)は、恋人のセーラ(ジュリー・アンドリュース)とデンマークの国際会議に赴くふりをして、東ドイツへ亡命。 しかし、その真相は、東側の軍事機密を探る逆スパイとしての任務を果たすためであった…。 ポール・ニューマンが、黒板に書かれた《軍事機密》を暗記しようとした時の顔が良い! 清純派女優ジュリー・アンドリュースの濃厚なベッドシーンも、公開時は話題になりました。 また、長年ヒッチコック映画の音楽を担当してきたバーナード・ハーマンとは内容をめぐって対立し、以後完全に袂を分かち、前作の『マーニー』がハーマンと組んだ最後の映画となりました。 それは、 「売れる主題歌を」 と求めるユニヴァーサル社の圧力に屈したヒッチがハーマンのスコアを没にしたため、二人の長年にわたる協力関係は終わりを告げたのです。 当時の《スパイ映画ブーム》に乗り、 『引き裂かれたカーテン』ではヒッチコックはポップなヒット曲を求めましたが、 その彼が1966年3月末にゴールドウィン録音スタジオで見たものは 案の定、フルート12本、ホルン16本、トロンボーン9本、テューバ2本、ティンパニ2組、チェロ8丁、コントラバス8丁という異様なオーケストラでした。  そこにはヴァイオリンもオーボエもなく、アルト・フルートやバス・フルートといった珍しい楽器を含む12本のフルート属アンサンブルが不気味な味わいを出しています。 音楽はさっそくジョン・アディスンのものに入れ替えられ、10年続いた“ヒッチ”とのゴールデン・コンビは惜しくも解消したのでした。 しかし、音源が残るのは幸せな事 全く、存在が残らない《没》スコアも多し…… 次回、音源があれば リドリー・スコットとジェリー・ゴールドスミスの残酷《没》物語を……😁
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