名もないこの街に 異国の陽がのぼる 乙女は悲しみを 御国(みくに)のためと知る 春まだ夜は長く 鐘鳴る了仙寺 運命(さだめ)と泣くも良し 儚き世の情け 下田港(みなと)を 訪れた黒船(ふね)が 沖遥か彼方に揺れ 駕篭(かご)で行くのは 時代(とき)に翻弄(あそ)ばれた 眉目清(みめさや)か 麗しい女性(ひと) 桜見頃の唐人坂で 巡る想いはひとりひとり 泣けば花散る一輪挿しの 艶な姿は春の宵 月冴え照る道に 椿の濡れまつ毛 世を捨て 世に追われ 旅立つ稲生沢(いのうざわ) 明けの烏(からす)と 謡(うた)われしことは 今遥か昔の夢 死ぬは易くて 生きるは難しと 三味の音(ね)に託せし女性(ひと) 石や礫(つぶて)でラシャメン結いに 後ろ指さす ひとりひとり 恋の涙と雨降る中を 己(おの)が愛した 男性(ひと)は去(ゆ)く 桜見頃の唐人坂で 巡る想いは ひとりひとり 泣けば花散る一輪挿しの 艶な姿は春の宵 春の宵 桜舞い