新しいひらがなが落ちていたので、 それを交番へ届けてまいりました 婦人警官が、 音を立ててひび割れていくなか 雑司ヶ谷のあの螺旋坂は 何度降りてもここへ 続いてしまいます ようやく再会した母も、 わたくしより 年下になっておりました 海辺に大理石でそそり立つ、 あの外科医によれば 透明な人間を手術することは 禁じられているのだそうです わたくしは、 実在する人物や団体とは 一切関係がありません 魚が感動する音楽を作曲するよう 命じられた少女が 髪をとくことによって 五線譜をすくいとっている 茗荷谷のあたりで問題集を広げ 瞬間移動の旅人算で回答した まだ、 起きてはいないことだって過去なの 坂の途中には、 空き巣が 五十音順でやってくるお屋敷があり 少女が通り過ぎると 草原になってしまう 初めて書いたしんにょうが空高く 伸びていく昼下がり 等々力渓谷まで来たところで 少女はサランラップを広げて 積乱雲を保存した あれは、 わたくしを殺めたその人であろうか もうそれも、 どちらでもいいような 気がいたします 水中に佇む惑星に引き寄せられて 娑婆の有象無象の輝きに包まれて ただ半島の先へ先へと 開かれていくこの指で 点字を読むように水面を 広げております