あっ、と声が 漏れそうになった 影が君と 重なっていたからだ いつの間にか 君が季節になった はじめてみたいに あれは春だった どこか日が延びた 誰かあくびをした 忍び込んだ風を カーテンが泳いでいた 夕方になれば 蛙も鳴くんだろうな 君の横顔は 絵みたいだ、と思った 窓越しの空に 吹き抜けの青 名前も知らない 草木の匂い 書いてすぐ消した シャーペンの跡 形もまばらな ひらがなの、こい ぱっ ぱっ あ、くろい雲 もうじき雨が降って 鏡を見るのも 苦手な自分のままで 今日君は傘を 忘れていないだろうか 湿る草木はただ 深くみどり 雨粒 連れ落ちる 夏のかけら 淡く染まる 花言葉の色に 橙が差すなら 君の髪も 片道で140円の距離 振り返る君に 底抜けの青 ふたり影を映す 邦画のように やはり季節は 君だった、と笑う 形もまばらな ひらがなの、こい ぱっ ぱっ ぱっ あっ、と声が 漏れそうになった 伸びた影が 君に似ていたからだ ああ、そうだよな もうじき夏が来るよ