読む人のない手紙のように 驟雨のあとで水に映る空 届かない 君が名付けた壁の罅 首環の糸を切って散りばめた ビーズの中で なぜ一つだけが答えない 聞けない 雲ひとつない空 凪ぐ風 朱ひとつ映える様 終えるよう 雲ひとつない空 君の手 ふと思い出した 星が出た 君に借りた本を、 借りて読まずにいたカフカを開くと 懐かしい匂いがした。 君の部屋の匂いだ。字が滲んだ ハッピーエンドの映画。 抱えきれないほどの夕焼け空 決して冷めないという魔法瓶。 ふたを開けてみたら冷たいよ。 眠らずにいた朝の窓を溢れ出す 星のイルミネーションみたいな 光の海 潮風に流される雲の中のひとつ。 君がなぜそれを選んだのかはもう 聞けない。 時間がなくて乗れなかった 観覧車のチケットも また何度も来ようねって言って 買った水族館の年パスも いらないよ。虚しいよ。 意味ないよ。 君と一緒じゃないとこんなもの 財布に入ってるだけで重たくて 見つけるたびに破り捨てようと 思うのに 破れない。離せない。拭えない。 焼けない。消せない。 断ち切れない。歩けない。 分からない。進み方も忘れ方も 分かんないよ。分かんないよ。 分かんないよ。 泣き方も、立ち方も、生き方も 君のいない空なんかいらない。 君のいない夜なんかいらない。 君と見ない虹なんかいらない。 君と見ない月なんかいらない。 届かない手紙なんかいらない。 写らない写真なんかいらない。 風の色も冬の詩もいらない。 天ノ川も永遠もいらない。 花莚の天使もいらない。 車椅子もサンタもいらない。 揺れる糸もオレンジもいらない。 梯もカシオペヤ座もいらない。 砂漠のヴェガもデネブもいらない。 雪の白もシニフィエもいらない。 あの日見た夕焼けの続きをもう 一度巻き戻してよ 雲ひとつない空 誰そ彼 (君に逢いたいよ) 時を戻せたら (戻せたなら) 西の朝 (君と見た夕焼けをもう一度) 雲ひとつない空 沈む月 (君がもともといた場所へ) 還る流れ星 昇る景