パリが好きだった 何が きっかけで 好きになったのかは 覚えていない ただ 生まれてから ずっと パリに憧れて来たような気がする 今 換えたばかりの フランス紙幣と パリ行きのエアチケットを パスポートに挟んだ 古いマリーラフォレだけ 赤と青のブルース そっと テープをかけながら 窓に消えた TOKYO 腕の時計の針だけを 逆に7つ 遅らせ 毛布かけて 眠りにつく パリが近づいて来る アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー 5月のドゴール空港は 肌寒かった 半ソデの私は 腕を組みながら ホテルへ向う タクシーを拾った パリの街並は いつか見た画集のようで 旅人はみな その絵に見とれて立ち止まる “しおり”だった 焼いたばかりのクロワッサン 砂糖抜きのカフェオレ レンガ通りのテラスには 早い朝のにぎわい 少し厚めの新聞は 辞書をめくるたびごと ジグソーパズル解いたみたい パリがわかる気がする アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー アイアイヤヤーー エッフェル塔 凱旋門 モンマルトルの丘 ルーブル美術館 どこへも行かなかった それより もっと 街に溶け込みたかった 人のいい魚屋のおばさん 太っちょのおまわりさん 鼻歌まじりのペンキ屋さん 映画スターみたいにハンサムな 花屋さん そばかすだらけの子供達 ベンチに座ったまま 何かブツブツ怒っていたおじいさん 名前も知らない野菜を 差し出す 恐そうな八百屋さん 笑いころげるリセエンヌ まじめそうな銀行員…… 陽気なホテルのドアボーイ 誰かに似ている郵便屋さん 大きな荷物を抱えた少年 公園でドロだらけになって 遊んでいる小さな子供 私が憧れていたのは この人ごみ パリが聞こえる パリが聞こえる