彼女がそのレストランを訪れたのは 行方不明の子供たちを 探すためだった 噂を聞いたのだ 孤児院の子がこの店に 入っていくという その姿を見たと しかし応対した支配人の男は 残念そうに首を横に振る 「そのような 心当たりはありませんね」 それを聞いてがっくりと 肩を落とすシスター すると支配人は彼女を レストランの一番良い席に座らせた 「せっかくですから何か 食べていってください ……ああ お代なら結構ですから」 ありがたきお言葉 実は昨日から 何も食べてません 子供たちが心配で 厚意に甘える事にした シスターの前に やがておいしそうな料理が 運ばれてきた 白身魚のソテーだろうか それを見て 彼女は申し 訳なさそうにうつむいてしまった 「教えにより 生き物の肉は口にできないのです」 シスターがそう断っても 支配人は引き下がらない 「そんなことをおっしゃらず ここは神の目も届かぬ 森の中ですから」 仕方なくシスターはナイフで 魚の身を切る 一口だけ食べて帰ろう そんな風に考えていたところ 彼女は料理の中に 何か固い物がある事に気が付いた シスターの顔が青ざめる それはレーナが身に着けていた ブローチだった 泳ぐのが得意なレーナが 海で集めた小石を組み合わせて 作った手作りの物だ どうしてこんな物が 料理の中にあるの? 少なくともあの子は この場所に来ていた ふと気が付くといつのまにか 支配人の姿は 店内のどこにも見えなくなっていた 胸騒ぎを覚えた彼女は思わず席を 立ち 店の奥へと忍び込んでいったのだ 途中の廊下で小さな靴が落ちていた シスターは再び青ざめる それはマルクの靴だった 彼の足が速かったことを彼女は 思い出す ひときわ異臭が漏れる扉の前に立ち シスターは恐る恐るそれを押し 開ける そこは血と肉のこびりついた調理場 コックの顔をした男の顔は 毛むくじゃらだった 二本足で立つ 犬の獣人よ 包丁についた血は いったい誰の物? 作業台の上では赤い猫が 皿のシチューを舐めている 浮かんでいる具材は間違いなく 人間の指だ 無数の指の中の一つ そこにはめられた指輪をシスターは 見つけた あれはエマの物で間違いない 恐ろしい想像がシスターの脳裏を 駆け巡る 振り返った シスターの前に立っていたのは 二羽のウサギと巨大な熊だった シスターは叫び 声をあげその場に倒れこんだ 薄れゆく意識の中 徐々に迫ってくる絶望の足音 気を失う直前 彼女が見たのは 額に角を生やした少女の顔だった 目を覚ました時 彼女は孤児院に帰ってきていた そしてその後 行方不明の子供たちも全員 無事に孤児院へ戻ってきたのだ 子供たちは数日間の記憶を 失っており そして とてもお腹を空かせていた レーナやマルクたちが 唯一覚えていたのは フルートを持った 双子のウサギの姿だけだった あのレストランは建物ごと 森の中から姿を消した まるで最初から 存在していなかったかのように そして 平穏な日常が戻る 子供たちのためにおやつの ブリオッシュを焼きながら シスターはこんなことを考えていた もしもあの時 出された料理を 口にしていたならば… 私は一体どうなっていたのだろう か?