降り積もる雪にふと思い浮かべたのは、タイトルにもあるglobeの『DEPARTURES』の、この短い一節でした。
【『あなたが私を選んでくれたから』……今の私がある。「何もしなくても、ただ自分のそばにいてくれるだけでじゅうぶんだから」という理由だけで、存在を認められ、あなたとともに生きていこうとしている、今の私があるのだ】
そんなglobeの代表曲をベースに、好きなアーティストや好きな歌の中から、自分自身の遠い恋の思い出も多少交えながら、『雪』にまつわるものをピックアップしてみました。
……あ、サブタイトルの英語の意味は、ご想像にお任せいたしますっ。
書いてもいいけど、某ヨーロッパ文学の影響で長文の私、たぶん字数オーバーになると思いますのよぉー。(笑)
【結婚してどれほどの歳月を経たのだろう。ぽつり、またぽつりと、いつしか数々の病が身体に芽生えてきていた私は、この家で夫と二人きり、斜陽とみなすにはまだ早い年齢で、日常の大半を寝室のベッドで過ごしていた。
これらの病の中には、人より少し早く『現代の医学では、寛解とみなされることはあっても、完治することはほぼないとされているのみならず、生き死にの意味と意義を絶えず突きつけられながら、この先の生涯を送らざるを得ない病』までもが棲みついている。
そんな人生を送る故なのか、この世の生を謳歌している証であろうはずの胸の鼓動のひとつひとつでさえ、皮肉にも刻々と寿命を司るタイマーのカウントダウンを宣告されている音にしか聞こえない。発作的に動悸がするたび、一定に決められているはずの時間のリズムを全く無視して身体が生き急いでいる感覚、あるいは生命を削られる感覚に襲われるのは、私だけなのだろうか。
ある真冬のさなかの日曜日の昼下がり、私はいつものように、体力の低下した身体に数種の薬の副作用も重なって、頭重感とだるさにうとうとと眠りに就いていた。
が、ふと夫……あなたのドアを開ける音に、朦朧としつつも意識が現実の存在を思い起こさせた。それでも弱った身体はそのまんまに、未だ頭の中が夢うつつの境界線で行きつ戻りつこんがらがっていて、すぐには動けないでいる。
「今夜は冷え込んで雪が降るらしいよ」
そう話しかけても何も反応しない私に、あなたはまだ私が熟睡していると思っているのだろう。私の肩まで布団を掛け直した。
そうして布団越しに私の腕をふっと撫でたあなたのかすかな独り言は、そういえば、いつだったかの、負い目を感じている私に語りながらもどこか自分に言い聞かせていたような言葉でもあった。
「それで君が毎日を、穏やかに微笑んで過ごしてくれるんだったら、好きなことややりたいこと以外、何もしなくったっていいんだよ」
私は気づいている。あなたは黙っているけれども、絶えず不安や生きづらさを抱えている妻に対して、夫が無理をしてでも、常に妻の前では自分を強く装って、妻の分も担いながら毎日を支え続けてくれているのだということを、また、おそらく自分が伴侶を看取って残りの孤独な人生を老いた身で引き受けて生きていく、そんな、目を反らしたい将来をまだ人生の折り返し地点の手前とされる年齢の頃から、すでに夫が覚悟しているのだということを。
そしてとっくの以前から、鏡合わせのように夫婦がお互いにそれを気づき合いながらも、あなたも私もわざと素知らぬ振りをして日々を過ごしている。
あなたが私の寝顔を見つめているような気配を感じてしばらくののち、足音が静かに立ち去っていった。そっと閉まるドアの音がして、同時にそれは途切れた。
いつしか少し寂しげにからからと食器を洗う音がぼんやりと流れてきてすぐにやんだかと思うと、今度は洗濯乾燥機と掃除機の音がうつらうつら遠くに聞こえてきた。
……私は再び意識を深く沈めて眠りに就いた。夜になれば、冷たく凍える雪が外一面を覆うことだろう。今のうちに、こうしてあらかじめあなたの分までベッドを温めておこう。それが今の私に出来る精一杯なのだから。そうすれば、凍てつく夜でも、あなたとここで、お互いの温もりを感じ合いながら微笑んで眠れる……】
ーwith so many many thanks for my best beloved husband...
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↑これは絶対、主人にだけは見せられないよなー。(笑)
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