《『ライジング・サン』の背景》
1970年代、アメリカの経済が、インフレーションと景気後退に苦しむ傍ら、
日本は世界第2位のGDPを誇るまで経済成長を続け、対米貿易は10年間以上も黒字を続けていました。
1979年、社会学者エズラ・ヴォーゲルによる著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーになるなど
《驚嘆すべき成功を続ける日本経済》への関心が一般市民の間でも好悪両面で高まっていきます。
失業率が10%に迫ったアメリカに対し、対米貿易で莫大な黒字を拡大し続ける日本に
極端な円安を問題視して「ずるい日本」とみなす議論に支持が集まるようになっていきます。
「日本は自由貿易を掲げる経済大国であるにも関わらず
実際には保護主義的に振るまい、自国市場へのアクセスを制限している」
として貿易の不均衡を訴えますが、
日本側としては、メイドインUSAが選ばれないのは日本側の発展によって
日本製品がアメリカ製品の質を全体として上回るようになり、
消費者にとって粗悪なアメリカ製を選ぶ理由がないためだとする見方が強かったのです。
あの、1987年 若き不動産王のドナルド・トランプも
ニューヨーク・タイムズをはじめとする新聞各紙に意見広告を掲載しました。
「アメリカは長年にわたり日本につけ込まれており、経済的な不利益ばかりを被っている」
と、当時の対日政策を痛烈に批判したのです。
そんな中、1989年9月27日、ソニーがアメリカの大手映画会社コロンビア・ピクチャーズ社を買収することで基本合意に達した、と発表しました。
買収金額は1株あたり27ドル、総額34億ドル(当時の為替レートで約4800億円)。
日本企業によるアメリカでの企業買収としては史上最高額(当時)となりました。
1989年9月30日付朝日新聞朝刊(東京本社版)では、
買収合意の発表の翌日、アメリカ・ロサンゼルスのラジオ局が
「日本人は米国を乗っ取るのか」
というタイトルでリスナーの声を特集したことや、
有力紙が相次いで大きなニュースとして扱ったことを伝えています。
1989年10月12日付朝日新聞朝刊(東京本社版)によると、前日にあったシンポジウムで、盛田氏は
「米国の魂を買ったと非難するならば、売った方にも問題がある」
と発言。
これに対し、同席していたアメリカのアマコスト駐日大使が
「ソニーのコロンビア社買収は、米国民にとって(刺激的な)問題だったことを意識しなければならない」
と応じるなど、ピリピリしたムードが漂っていました。
半月余り後の10月31日には、三菱地所がニューヨークにある Rockefeller センターの管理会社買収を発表し、アメリカの反発はいよいよ高まりました。
アメリカは、日本に対しイラついていたのです。
1992年に発表されたマイケル・クライトンの『ライジング・サン』は、当時のアメリカの日本への危機感を背景にしています。
そのちょっと前の映画『ダイ・ハード』(88年)でも、ロデリック・ソープの原作小説では舞台はアメリカの石油会社ですが、
映画版では日本のナカトミ商事に置き換えられています。
サムライ、ゲイシャ……の《エキゾチック》な日本ではなく、
スーツ姿の日本人とアメリカ人が、経済を挟んで争うさまが 物語の主軸になる時代がきたのです。
《武満徹のサウンドトラック》
この映画の注目すべき点はスコア音楽を日本の武満徹が担当していること。
武満徹は、1930年 東京に生まれ、おもに独学で作曲を学んだそうです。
作品は、コンサート・ピースから電子音楽、映画音楽、舞台音楽、ポップ・ソングまで多岐にわたり、
「タケミツ・トーン」と呼ばれた独特の響きは、世界中の演奏家、音楽ファンを魅了しました。
代表作のひとつ『エクリプス』(1966年)は、琵琶と尺八という、伝統的な邦楽ではありえない楽器の組み合わせによる二重奏曲。
この『エクリプス』は、アメリカで活動中の小澤征爾を通じてニューヨーク・フィル音楽監督レナード・バーンスタインに伝えられ、
このことから、同団の125周年記念の作品が委嘱されることとなります。
こうしてできあがった曲が、琵琶と尺八とオーケストラによる『ノヴェンバー・ステップス』(1967年)です。
この作品を契機として武満作品はアメリカ、カナダを中心に海外で多く取り上げられるようになりました。
映画音楽も、日本を代表する作品のサウンドトラックを手がけていて
『切腹』(62年)、『他人の顔』(66年)、『乱』(85年)他 多数 世に送り出しています。
この『ライジング・サン』のサウンドトラックは、
武満徹が作曲したはじめての外国映画音楽であり、これが唯一の洋画スコア。
演奏は東京コンサーツ(指揮:岩城宏之)、
オープニングとエンディングでは田中誠一率いる「サンフランシスコ太鼓道場」が参加し「和」のイメージを強調しています。
とは言っても《現代音楽作家作品》であるため、
メロディラインに親しみやすさが無く、聴き手には《面白い》とは言いづらい作品ですが、
魅力的なジャージーな雰囲気のスコアは、繊細さと大胆さが浮かび上がってきます。
【ストーリー】
日本の大企業ナカモトがロサンゼルスに建築した超高層ビルの落成式が行われた夜、
会議室でシェリル・オースティン(タチアナ・パティッツ)というコールガールが殺害される事件が発生する。
外国人絡みの事件を担当する市警渉外係のウェップ・スミス刑事(ウェズリー・スナイプス)が、
日本通のジョン・コナー刑事(ショーン・コネリー))と共に捜査を開始。
やがて、アメリカの軍事技術開発にも関わるナカモトが、他企業の買収に乗り出し、
そしてそれが難航していたことがわかる。
そんな中、スミスたちは事件現場を捉えたビルの監視カメラ映像を手に入れる。
映像にはナカモトのライバル社社長の御曹司エディ・坂村 (ケイリー=ヒロユキ・タガワ)が映っていた。
スミスはエディ逮捕に向かうが、車で逃走した彼は事故死してしまう。
落胆するスミスだったが、監視カメラの映像から新たな手がかりが見つかるのだった…。
監督:フィリップ・カウフマン
出演:ショーン・コネリー | ウェズリー・スナイプス | ハーヴェイ・カイテル
《サウンドトラック収録楽曲》
①オープニング - Taiko Drum Opening -
②ドント・フェンス・ミー・イン - Don't Fence Me In -
《映画の冒頭のカラオケ・シーンで、エディ・坂村 (ケイリー=ヒロユキ・タガワ)が歌います》
③コナー警部のロフトへ - Drive To Connor's Loft -
④ウェッブ、コナーに会う - Web Meets Connor -
⑤ディスクに現れたエディ - Eddie Revealed On Disc -
⑥追跡 - Chase -
⑦エディが殺しを目撃した - So Eddie Witnessed The Murder -
⑧ヤクザ追跡 - Yakuza Pursit -
⑨メドレー - Medley -
⑩バラの花びら - Single Petal Of A Rose -
⑪ウェッブの告白 - Web's Confession -
⑫エディの勝利 - Eddie's Showdown -
⑬暴露されたミステリー - Mystery Figure Revealed -
⑭モートン上院議員、ファックスを受ける - Senator Morton Gets Faxed -
⑮津波 -Tsunami -
《使用曲》
『Tsunami 』
Performed by Seiichi Tanaka and the San Fransisco Taiko Dojo
『Don't Fence Me In 』
Written by Cole Porter
『Single Petal of a Rose 』
Written by Duke Ellington
『Chattanooga Choo Choo 』
Written by Harry Warren and Mack Gordon
『Latin Lingo 』
Performed by Cypress Hill
『Love Shack 』
Performed by The B-52's
『Give Me the Simple Life 』
(uncredited)
Written by Rube Bloom and Harry Ruby
『How Gone Is Goodbye 』
Performed by Pam Tillis
《私見》
映画『ライジング・サン』は、日本人から見ると奇妙な映画です。
《日本通》のショーン・コネリーも、我々には分からない《珍妙》な日本の知識を披露します。
「どこの《日本》の話だよ!」
とツッコミながら観るのが良いんです!この映画。
面白い映画……とは言えませんが、ハーヴェイ・カイテル 他《コワモテ・キャスト》が
《日本》に遠慮しいしいしているのは、なんか照れくさくなるのです。😅
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