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むー の クロスオーバーイレブン Vol' 17 Jazzy Night 『プレイバック』…「男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」

Playlist byむー

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  • 2020.05.15
  • 42:06
  • 8曲
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説明文

ベティ(ベティ・メイフィールド)が浴室から出てくると、 化粧に非の打ち所がなく、 眼が輝き、 髪の手入れも 行き届いていて、 開いたばかりの《薔薇》のように見えた。 「ホテルへ 連れて行って下さる? クラークに話があるのよ 」 「 彼を愛してるのかい 」 「あなたを愛してるんだと 思ってたわ」 「 あれは夜だけのことさ 」 と、私はいった。 「 それ以上のことを 考えるのはよそう。 台所にまだコーヒーがある 」 「もう いらないわ。朝のお食事のときまで 飲まないわ。 あなた、恋をしたことないの? 毎日、毎月、毎年、一人の女と 一緒にいたいと 思った事ないの?」 「 出かけよう 」 「あなたの様に《しっかり》した男が どうしてそんなに優しくなれるの?」 と、彼女は信じられないように訊ねた。 「 If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive. 」 私は彼女に外套を着せて、 私たちは 私の車の所へ歩いて行った。 ホテルへ戻る間、彼女は一言も 口をきかなかった。 《『プレイバック』》 レイモンド・チャンドラーの1958年刊、 フィリップ・マーロウ・シリーズ 長編第7作。 『プレイバック』……チャンドラーの遺作…… この小説には 『 If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive. 』 という有名なセリフが出てきます。 1959年、初めての翻訳では 「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」(清水俊二訳) と言うように訳されています。 この台詞を日本で最初にクローズアップしたのは、1962年 小説家 丸谷才一 です。 丸山才一は1978年、《週刊朝日》のインタビューで こう語っています。 「 念のため断っておくが、当時はチャンドラー論なんてアメリカにもなかったし、 従ってその手のものを私は参考にしてゐない。 全部自分で考へたのである。 このマーローの台詞も、わたしが名せりふだと指摘する前は 別に大向こうをうならせてはゐなかったもので、つまり誰も注目していなかった。 が、わたしのこの文章によってマーローのこの台詞はたちまち名声を確立した。」 なかなかの自画自賛ですが、実際 現在でも日本以外ではこの台詞はそれほど有名ではない様です。 この『プレイバック』、元は映画用脚本の原型があり、それを翻訳したのが、 小鷹信光 訳の『過去ある女-プレイバック-』(1986年 サンケイ文庫 )です。 ( The Screenplay of "Playback" ) この小説には フィリップ・マーロウは登場しません。 よって次の訳は、2016年の村上春樹 訳版になります。 そこでは、 「厳しい心を持たずに生きのびてはいけない。優しくなれないようなら、生きるには値しない」 という風に訳されています。 一番耳馴染みのある 「 男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない 」 という訳は、『追いつめる』(67年)、『兇悪の門』(73年)の著作で知られる 生島治郎が 自著のあとがきの中で《ハードボイルドの定義》として訳したものが、 1978年、角川映画、高倉健、薬師丸ひろ子 主演の『野性の証明』の宣伝コピーとして利用され 一般層に知られる事になったようです。 また、矢作俊彦は『複雑な彼女と単純な場所』(新潮文庫 1987年 )の中で、 この一節は正しくは 「ハードでなければ生きていけない、ジェントルでなければ生きていく気にもなれない」 という意味であると述べています。 日本限定の名セリフなこの言葉…… なんとなく《侍魂》を感じますね。 日本人が好きなのが、理解出来ます😄
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